1 暗闇の中の恐怖

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「分かった。地図を送るから、放課後来たら良い」 「ん? 貴方は一緒に行ってはくれないんですか?」 「俺は今日委員会で遅れるから、先に行っててくれ」 「……待っていても、良いのですが」 「いや、悪いから」 「……そうですか」  首を傾げながらも、それでも快陸は頷いた。  快陸と連絡先を交換し、スッとスマホを出して主張してきた來海とも仕方が無いから交換して、それから今度こそ立ち去ろうと手を振った。 「陽人!」  だが呼び止められ、と同時に投げられた物を受け取ろうとし、それは手に当たり地面に落ちる。 「昼休み、もう終わりだろ? せめてこれだけでも食っとけ」 「あ、ああ……ありがとう」 「こちらこそ、これ、ありがとな」  ひらひらと身につけている学ランの裾を持ち上げ、來海は礼を言う。  それから落ちた物を拾い、投げるのではなくしっかりと俺の手に持たせたそれは、パンだった。  小さいサイズで、短時間で食べるのに良さそうだ。  そんな些細な気遣いに心がポカポカと温かくなり、大切に手で抱えると背中を向け校舎を出る。  すると出てすぐの所に最近見慣れた影を見つけ、俺は苦笑しその影に近づいた。 「心配性だな」  そう呟く俺を、寂し気に剛は見つめる。  俺の頭のてっぺんから靴の先まで何度か視線を行き来させ、それから大丈夫だと判断すると彼は無言で俺の手を引いてくれた。その手に安心し、入っていた力を抜く。 「ありがとな、剛」  そう言うと、握っていた手に返事のように力を込められた。  実は、俺は委員会に入っていなかったりする。  委員会に入っているのは剛の方だ。  剛は、割と人当たりの良い方だ。頼まれると断れない性質らしく、先生からの信頼も厚い。  そんな剛は、月翔と連絡を取り月翔が休みである事を知ってしまったらしい。  俺に何度も、しつこく『待っとけよ? 絶対一人で帰るなよ!?』と言ってきたが、教室を出て暫くすると俺は「さて」と腰を上げた。  無造作に剛の鞄のポケットにスマホが入っているのを確認すると、『悪い、用が出来たから先に帰る』とすぐにバレそうな嘘を送った。  鞄を持って、何人か残っているクラスメイトと挨拶を交わし、階段を降りて校門を目指す。  玄関で靴を履き替えながら見た空は一層厚みを増し、今にも雨が降り出しそうだった。  遠くでは雷が鳴っていて、これは帰るのが大変そうだ。 「やだな……こんな空」  暗く、視界が沈む。  相変わらずフラフラしている足取りを俺はどうにもできなくて、ただ何かをやらかしてしまったように人目を避け、下校ラッシュの時間が過ぎ人が少なくなった所で校舎を出る。
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