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1 暗闇の中の恐怖
――ずっと、あの光を探している。
黒に塗りつぶされた瞳で辺りを見渡すと、その闇の深さにいつも驚いてしまう。
この闇にいつか囚われてしまうのではないか、何もできず喋れず、動けなくなってしまうのではないか。
そうして不安になり『助けて!』と声にならない声で叫ぶと、あいつはいつも俺の手を引いてくれた。
『もう、大丈夫だ』
その手は視界に映らない、彼を実感できるのは確かに掴まれた手と声だけだ。
だが確実に『そこにいる』と思わせるように強く手を握られれば、張りつめていた糸は徐々に解けていく。
安心できる温もり、心を落ち着けられる場所。暗闇の中を照らす、唯一の光。
――だが今、その光は消えてしまった。
もうどこを探しても、取り戻す事は出来ない。
その事が信じられない俺は、『もしかしたら』とあり得ない可能性を信じて、いつまでもあの光を探し続けていた。
△▽
「一生のお願い、陽人!」
小鳥の囀りが聞こえる清らかな朝。
ぐったりとした様子で階段から下りて来た月翔は、ふらふらと覚束ない足取りで俺に近づいたかと思うと、いきなり頭を下げてきた。
手に持っていた朝食の皿を置くと、嫌な予感がしながらも俺は「お願いって、何だ?」と聞いてみる。
「今日風邪引いちゃって学校休むから、僕の代わりに手紙を渡してきて欲しい!」
「手紙……?」
「そう、これ!」
そう言って、月翔は手に持っていた男が使うにしては可愛らしい便箋を渡してきた。
淡い桜の便箋は、四月というこの季節には合っているが時代にそぐわない。
何でいきなりそんなものを、という言葉を吐こうとしたところで、『聞かないで』というメッセージを受け取り深くため息を吐いた。
彼は俺の双子の弟で、言わんとしている事は大抵口に出さずとも伝わる。
そしてこうも必死になっている弟の頼みを、俺は断れない。
そう知っていて可愛らしく手を合わせるなんて、我が弟ながらあざとい。
と思いながらも、俺は渋々頷いた。
「分かった、誰にだ?」
「光葉快陸っていう、眼鏡かけた見た目は秀才っぽい人! 昼休みはいっつも中庭のベンチにいるから……あ、あとこれ、僕の制服!」
「……ん? 何で制服が必要なんだ?」
「え? だって、僕に変装して渡して欲しいから」
制服じゃないと、校内に入れないでしょ?
と、ごほごほと咳を交えながら言う月翔は、相変わらず言葉が足りない。
俺たちは一卵性双生児、見た目は瓜二つだ。
だが性格は異なっている。一人称からも分かる通り、正反対と言っても良い程に真逆の性格だ。
学校が同じだった中学時代にも言われたものだ。『同じ格好をしていても雰囲気ですぐに分かるね』、と。
そんな俺が、月翔と同じ制服を着た所で滲み出る雰囲気まで誤魔化せるとは思えない。
なので『悪いが』と断ろうとした所に割り込むように、月翔が言葉を滑り込ませた。
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