水汲み巫女の最後の1日

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水汲み巫女の最後の1日

 まだ夜が明かない皆が寝静まっている頃、私エミリアの1日は始まる。  そっと起きて巫女服に着替えて音も立てずに部屋を出る。  裏口からいつもの様に木製の水汲みバケツを持ち教会の裏にある聖域と呼ばれる森に入っていく。  最初の頃は暗い森の中を歩くのは怖くて泣きそうになっていたけど今では慣れてしまった。  多分、目隠しされても歩いていける自信はある。  数分後には目的地である聖水が湧き出る泉に到着した。 「女神様、本日も聖水を頂く事をお許し頂きありがとうございます」  手を組み私は女神様に祈りを捧げる。 「ですが、私実は今日が最後のお勤めになります。巫女をクビになる事になりました。今後はポンプを設置して水を汲むそうで私はお役御免になります。でもね悲しくはないんですよ、むしろ嬉しいんです。協会に巫女としてスカウトされて入ってからやる事は雑用ばかり。先輩方の服の洗濯、部屋の掃除、食事の用意……、ぜーんぶ私がやってるんですよ。文句も言いたくなりますけど相手は貴族の令嬢ですから平民である私にそんな資格はありません。おまけに『神巫女のご機嫌取り』に忙しいみたいで書類作業も丸投げなんですよ。神官様や司祭様達も黙認というか一緒にご機嫌取りしていて……、女神様への信仰心はどこに行っちゃったんですかね?それにミスがあったら私のせいにされちゃうんですよ、頼まれて嫌嫌やって怒られる、理不尽過ぎやしませんか?」  時間が許す限り私は教会に対する不満をさらけ出した、どうせ最後なので許していただきたい。  周りは何せ敵ばかりなのだ、平民出身者は私だけではないのだが貴族令嬢達の取り巻きをしている。  私は空気になれなくて所謂『ぼっち』である、余計に雑用を押し付けられてしまう。  挙げ句の果てには悪口陰口を言われるのでストレスは溜まる一方。  だからクビを言い渡された時、内心喜んでいたのは内緒だ。 「そういう訳で私は協会をクビになったので田舎に帰ってのんびり暮らそうと思います。今までお世話になりました」  そう言ってお辞儀をした後、再び教会に戻る。  戻る時の方が慎重で石にでも躓いたら一からやり直しだ。  そうして私は教会に戻ってきた、私が持ってきた聖水は神巫女様がご使用になるそうだ。  これで私の役目は終わった。  朝日が登り起床時間となり徐々に他の巫女が起きてくる。  私は適当に会釈をしつつ事務室に向かい退職の手続きをした。  教会から配給されていた服やら小物は勿論返却。  事務員さんからは労いの言葉をかけられた。  そして部屋に戻り私服に着替えて荷物が入ったカバンを持って教会を出た。  これで私の長かった巫女生活は終わりを告げた。  随分とあっさりしてしまうけどこれで良いと思う。 
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