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一口飲むと空っぽの体に糖分が沁みた。仕事のことを下手に励まされたりしたら余計に辛いと身構えていたけれど、彼は仕事のことは一切言わなかった。
「想像したらパオちゃんの顔見たくなっちゃったな。帰りに寄ろうかな、パオちゃんのお店。あ、でも帰りじゃ閉まってるか」
ワタクシの勝ちといたずらっ子みたいに言うパオちゃんが浮かんで、ふっと力が抜けるみたいに笑みがこぼれた。大袈裟かもしれないけれど、久々に笑った気がして泣きそうになった。我ながら、感情が迷子で忙しい。
「店自体は確か十時ぐらいまでやってんすけど、今日はあいつ夕方までのシフトちゃいますかね」
「そっか。それは残念」
「あいつはもっと働きたいんすけどね。留学生は一週間に二十八時間以上働けないんで」
「そうなの?」
「らしいっすよ。一週間に二十八時間の労働で、学費払いながらどうやって飯食うねんって話っすけどね。せやから、こっそり別んとこでも働いてますわ、あいつ。これ内緒っすよ」
今まで海外留学生の友達なんていなかったから、考えたこともなかった。一週間に二十八時間ってことは時給が千円として週に二万八千円。一ヶ月は四週だから十一万二千円か。税金も引かれるだろうし、生活費を払いながら学費まで払うのは厳しい額だ。表向きは良くないことなのかもしれないけれど、確かに他にもバイトしないと生活がままならない気がする。
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