倒錯

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 昼休みになり、聡子や來未に一緒にランチしようと誘われたけど食欲がないので断った。会社の裏にある公園のベンチに座り、ぼんやりと鳩たちを眺めていた。暦の上ではもうすっかり秋だけど、まだまだ陽射しが強くて暑い。 「鳩好きなんすか」  ほっぺに冷たい感覚があってびくっとすると、すぐそばに小山内くんが立っていて新発売したばかりのフラペチーノを差し出していた。 「特別好きってことはないけど……。ありがとう……」  正直、フラペチーノなんて飲む気分ではなかったけれど、自分の分と二つ持っていたのでさすがにいらないとは言えなかった。小山内くんと話すのは例の告白以来なので気まずかったけれど、彼は平気そうで安心した。 「今からしゃべる時に英語使ったらあかんゲームやりましょか」 「……え?」  隣にどすんと腰を下ろすと、彼はまた妙なことを言い出した。 「家でたまにパオとやるんすけど、英語禁止にしたらあいつ普通に台湾語でしゃべってくんねん。ほんで自分の勝ちやってイキってくるんすよ。意味分からんでしょ。そういうゲームちゃうっちゅうねん」  呆れたように言いながら、小山内くんは見るからに甘そうなフラペチーノをストローで啜った。カップについた水滴が彼の指を濡らすのを見ながら、勝手にごついと思っていたけれど、指はほっそりしていてきれいだなと思った。
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