運命なんか、信じない

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今さら帰りづらい。 口からは潔白だと何とでも言えるが、あの写真を見れば、祖父母は怒り千歳を勘当するだろう。 ハローワークにも足しげく通ったが、履歴書に丸をつけたオメガの性別を見ると、担当員には露骨に面倒くさそうな表情をされた。 次の職が決まらないまま、資金は底をつき、根城にしていたネットカフェを出ていかなければならなくなった。 もう何日もドリンクバーでしかお腹を膨らませていなかったため、空腹感が酷い。 耐えきれず、千歳は地面へと横になった。 ──このまま、死ぬのかな……。 婚約者に捨てられ、社会からも必要とされない、惨めな自分。 泣いたら負けだと意地を張っていたけれど、心は限界だった。 「……泣いてるの? どこか痛いの?」 子供の声が聞こえてきて、千歳は薄く目を開いた。誰だろうか。 「何だ……? 物乞いか?」 今度は違う声がした。ぼやける視界の中で声の主を捉える。 記憶にない顔だ。外国人のような風貌だが、日本語がとても流暢だった。 「触るな、ユキ。病気を持っているかもしれない。……人の家の前で、はしたないと思わないのか。これだからオメガは」 嫌いなんだ。 男は憎しみを込めてそう言い放った。 屈辱的な言葉を投げかけられているのに、何故か身体の内側が酷く熱い。
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