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「今まで半日くらい妹の子を預かったりしたことあったけど、朝から晩まで小さな子の面倒見たのは初めてだった。陽色は可愛くて仕方ないし、おまえに説教したり一緒に飯食うのも楽しかった。あんなに賑やかな時間は久し振りだった」
「だったら、」
「だからだよ。俺はおまえが妬ましかった。望めば普通の家庭が持てるおまえが。俺はおまえを憎みたくない。……嫌いになりたくないんだよ」
寧花と陽色を連れ帰ってやり直すようであれば、龍之介は二度と謙太に会わないつもりでいた。『普通の幸せ』を目の当たりにして、平常心で居られる自信がなかったからだ。
家族になりたいと言われて嬉しくないと言えば嘘になる。でも、龍之介には捨てられた過去がある。それが心の中でいつも重くのしかかり、受け入れたいと願う気持ちを萎れさせていく。
検査結果ひとつで失われてしまった。
それは謙太も同じこと。
だが、謙太は別の未来を選ぶことができる。
「絶対の約束なんかない。いくら言葉で誓っても、おまえだって気が変わればいなくなるだろ?」
そんな不確かなものに縋って再び捨てられたら今度こそ耐えられない。家族が欲しいだけなのに、過去のトラウマが謙太の言葉を拒絶してしまう。
予想以上に深い傷を負っていた龍之介に、謙太は何も言えなくなった。
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