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『確かこの男は今、門脇が張り込んでいるあの古いお城のようなホテルにいるはずではなかったのか。元締めたちは取引の真っ最中のはずなのにこの男は何故ここにいるのだろうか。
それにこの前見た時確かに黒髪だったはず。今はサラサラの金髪だからもしかしたらそっくりさんかも知れない、と思いたいけどそうではないと特徴のあり過ぎる猫が訴えかけているし……。
あの猫は藤原夫妻以外にはそう簡単に懐かないはずなのに。
もしかして猫もそっくりさんかも知れない! そうだ』
と思いたいが、そんな訳がないことは頭では分かっているが蒼井は認めたくない。
蒼井は目の前の状況が自分の目の錯覚かと思いたかった。目を閉じて首を何度か横に振ってから再び目を開いてからもう一度前を見た。
しかし、目の前の状況は何も変わっていなかった。
蒼井がそこでヘンリームーアの立ち姿の石像のような姿で固まっていると九条が声をかけた。
「お疲れ様、蒼井くん彫刻みたいに固まってるけどどうしたの? あぁそうそう、紹介するね。彼は鳥居恭介君、今日からブルーローズで一緒に働くことになったからよろしくね」
九条の言葉にはっと気付いた蒼井は前を見た。
「えっと、ピアニストの蒼井静佳です、よ、よろしくお、お願いします」
「鳥居恭介です、主に厨房で働く予定です。よろしくお願いしまーす」
彼は猫を抱えたままにこやかに微笑んで挨拶をした。
「鳥居君はパティシエとしてもとっても優秀なんだよ。料理も上手いしこれから楽しみだよ」
「九条さん、鳥居君が優秀なのはそれだけじゃないですよね。その前にその猫どうしてここにいるんですか、それと鳥居君も。理由を教えて下さい。僕にちゃんとわかるように説明してください」
「まぁそんなに興奮しないで、順を追って話すから」
九条は二人を椅子に座らせた。そしてなぜか用意してあったお茶を出した。
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