11 知りたいこと

2/3
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 それから晴斗達はなんとなく空を眺めた。  二人が出会った日は雨が降っていたけれど、今日は雲一つない夜空に綺麗な月が出ている。  晴斗はふと、すぐ隣から視線を感じた。礼司がじっとこちらを見ている。 「……な、なに?」 「お前と話していると不思議な気分になるな」 「どういう意味かな?」 「晴美といる時とお前といる時とでは全然違う。あいつとは子供の頃からの付き合いだし、一緒にいて楽しかった。でもお前と一緒にいる時は不思議と心が落ち着くんだ」 「そ、そうなんだ」  晴斗はなんだか恥ずかしくなってしまう。きっと顔が赤く染まっているに違いない。  ドキドキしながら礼司の様子を窺うと、彼はこちらに手を伸ばした。そのまま頬に触れられそうになったけれど、彼の手は晴斗の体をすり抜けてしまった。 「あ……」  礼司の残念そうな声が聞こえてくる。 「触ることができないのはもどかしいな」  晴斗はどう返事をするべきかわからなかった。  晴斗だって本当は彼に触れてみたい。だけど礼司の肉体はすでにこの世に存在しないのだから、それは叶わない願いなのだ。  彼と手を繋いで、体温を分かち合うこともできない。それがひどく寂しく思えた。 「……晴斗について知りたい」  唐突に呟かれた言葉に、晴斗は目を瞬いた。 「教えてくれないか?」  礼司は真剣な眼差しで晴斗を見つめている。ドギマギしつつも、晴斗は小さく口を開いた。 「どうして僕のことを?」 「さぁ……なぜだろう。俺は自分の過去が曖昧だから、それを別のもので埋めようとしているのかもしれない」 「そっか」 「それとも、単純にお前に興味があるのかもな」  晴斗は顔が熱くなるのを感じたが、なんとか平静を保つ。 「僕なんかのことを聞いても面白くないよ」 「それでも構わない」  礼司は即答した。  彼が自分に興味を持ってくれたことはとても嬉しいが、晴斗は少し照れてしまう。 「それじゃあ、僕について知りたいことを質問してみてよ。それに答えるから」 「わかった」  礼司は少し考え込む仕草を見せた後、おもむろに尋ねてきた。 「お前は晴美をどう思っているんだ?」  予想外すぎる質問に、晴斗は戸惑った。まさかそんな風に切り出されると思っていなかったからだ。 「綺麗な人だなーって思うよ。真面目だし、努力家だし、いい子だと思う」 「そういうことを聞きたいわけじゃない」  正直に答えたのに、礼司は納得していないようだ。まさかと思って晴斗は尋ねた。 「恋愛感情としてどう思っているのかを聞いているの?」 「ああ」  晴斗は困ってしまう。  彼がそんなことを気にするなんて本当に意外だった。 「僕は彼女に特別な気持ちを抱いたことはないよ」 「そうか」  礼司は相変わらず表情をほとんど変えないままだったが、どこかホッとした様子にも見えた。彼の態度が少し気になったけれど、晴斗は話を続けることにする。 「他に質問はない?」 「ある。晴斗はどんな奴が好きなんだ?」  思わず息を呑んでしまい、礼司に不思議そうな顔をされた。 「いきなり変なことを聞くね」 「そうか?」 「そうだよ。だって」  だって晴斗が好きな相手は今目の前にいる彼なのだが、そんなことを本人に言えるわけもない。そもそもどうして恋愛事に関する質問ばかりしてくるのだろうか。 「あの……例えば好きな食べ物とか、趣味とか、そういう質問をされると助かるんだけど」 「そうなのか? なら趣味は?」 「本を読むことは好きだよ。家族が生きていた頃は、お菓子作りもしていたんだ」 「それは知らなかったな」  礼司は感嘆の声を上げた。 「今でも、たまに作りたくはなるんだけど……僕の部屋はキッチンも狭いし、道具もほとんどないからさ」  寂し気に笑いながら晴斗は呟く。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!