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医者一家は私を、文字通り身一つで放り出したのです。
3年間も一緒に暮らしたというのに、血も涙もありません。
やはり、まんまと私の色香に溺れ、簡単に妻子を捨てた男の情などそんなものです。
さて、私には売り掛け金もまだまだ残っていますし、生活のために働かなくてはなりません。
当初私は、それを楽天的に考えていました。
私は、かつてMRの営業でかなりの売上を上げていましたし、弱みを握っている上司も何人かいましたから、復職はカンタンだと、高を括っていたのです。
しかし、私は既に、トラブルメーカーとして業界のブラックリスト入りしてしまったらしく、元いた会社は勿論、別会社も全て不採用。
かつての上司とは、接見すらできませんでした。
結局私は、贔屓のホスト「光流」の紹介で、夜の世界へ入りました。そこに愛情や同情は一切ありません。彼らは必ず、自分の売掛金を回収しなくてはなりませんから。
キャバ嬢からはじまって、セクキャバ、イメクラ、本番なしのデリヘル、ソープ…
流れていくたび、仕事はキツく、単価は安くなっていきます。
そろそろ“裏”に流れることも考え始めています。
さあ、皆さん、
私は一体、どの分岐点で、道を間違えたのでしょうか。
答えは、略奪婚で折角いい暮らしを手に入れていながら、たまたま元嫁の新しい家庭を見て、心を
囚われてしまったところです。
「隣の芝は青い」
旦那を奪われた敗者のはずの元嫁が自分より上等な男を手に入れていると思いこんでしまったところにあります。
いや、そもそも。
最初の紫倉の時から略奪婚などせず、MRとして真面目に働き、合コンなんかで出会った社内外のイケメン君と、普通の結婚をしていたなら、まあまあ幸せな生活を送れていたのかも知れません。
結局のところ。
私は男の愛が欲しかったのか、贅沢な生活を手に入れたかったのか、それとも単に元嫁に勝ちたかっただけなのか…
今となっては、自分にももう分かりません。
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