三十二章 多忙な日々

70/72
9147人が本棚に入れています
本棚に追加
/1574ページ
   どこの領地も、その領地内だけでは賄いきれないものが存在する。例えば、森の少ない領地では、木材が不足しやすい。特に、冬場の薪木の不足は、民の生死に直結する大きな問題だ。  先ほどウェンフレンは『ほとんど』と話していた。それは、行商人による交易は少なからずあるからなのだろう。この領地にないのは、領主が先導して行う大規模な交易だ。 「隣接している領地のうちの二つは、森と岩山が多い領地で、小麦の生産量が少なく、それなりの値で売れるのです。そのため、行商人たちはこの街で小麦を買い取り、隣接する領地で小麦を売却しています」 「亜麻と綿は同じように売れないんですか?」 「それは比較的近隣に繊維類を大々的に生産している領地があるからです。他領地で売るのであれば、この街で買うよりも、そちらから買い取った方が、儲けがいいのですよ。ただ、距離的な関係上、この街では、その大規模生産している領地で買って運ぶよりも、この街で生産した方が安上がりになります」  ユリアスの疑問にウェンフレンは淡々と答える。  リューティスは脳内に周辺の地図を描いた。アインホルン伯爵領は三つの他領地に囲まれている。そのうちの一つは隣接している面積が狭く、その上、間に山を挟んでいる。残りの二つの領地は、ウェンフレンが先ほど話した通り、森と岩山が多い領地で、農作物全般の生産量が少ない。 .
/1574ページ

最初のコメントを投稿しよう!