三十二章 多忙な日々

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   しかし、この街の主要な作物は繊維系ではなく、小麦と芋だ。他にも、この街で消費しきるくらいの量の野菜類を細々と生産していたはずである。 「亜麻や綿の生産量を増やさないのはなぜですか? 他の街では売れないんですか?」 「亜麻や綿を作るよりも、小麦の方が儲かるのです。なぜなら、現状、アインホルン伯爵領は他の領地との交易をほとんど行っておりません」  アインホルン伯爵家は、不祥事のために十五年ほど前に没落し、それ以来、アクスレイド公爵が伯爵領の統治を行っていた。ただし、アクスレイド公爵は公爵領の統治や外交などの仕事で多忙の身であるため、ウェンフレンが代官としてアクスレイド公爵の指示を仰ぎながら統治を行っていたのである。  しかしながら、代官であるウェンフレンができるのは、現状の維持のみ。中央の国では代官に大きな判断は許されていない。代官が許可なくできることは、現状を維持することだけなのである。  勿論、領主へ提案をすることは可能だ。だが、忙しい公爵に仕事量を増やす提案をすることはなかなか難しかったに違いない。  不祥事で没落したアインホルン伯爵が統治していた頃に、他領との交易をまったく行っていなかったというのは、少々考えにくい。なぜなら、何処の領地も少なからず他の領地と交易を行っており、まったく交易を行っていない領地というのは滅多にないからだ。 .
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