10.あの頃に戻って

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「じゃ、すぐ風呂でも入って温まって休めよ」 部屋まで送り届けたものの、コウが何も喋ろうとしないのなら俺は必要とされてない訳で、ここに居る意味もない。 「賢人、待っ…て」 俺の背中にコウの声が追い掛けて来た。 「ごめんね……怒ってるよね」 「いや、別に怒ってなんか……」 「僕……賢人に、酷い事……言った」 「いや、コウの立場になって考えられなかった俺が悪いんだからさ」 「違う! 本当はいつも嬉しかったんだ。 でも、自分の生活や将来を犠牲にして欲しくなかった。 いつも賢人におんぶされるだけの僕に振り回されてさ…… 賢人はこのままじゃ自分の人生を自分の為に楽しく生きられない……そう思ったんだ」 コウの大きな瞳からは、さっきの雨粒みたいに、涙が次々に(こぼ)れて落ちた。 …そんな…… あの言葉は、俺の為に? 生憎ハンカチなど持ち合わせていなかった俺は、コウに近づくと手の平でその綺麗な涙を拭った。
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