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「じゃ、すぐ風呂でも入って温まって休めよ」
部屋まで送り届けたものの、コウが何も喋ろうとしないのなら俺は必要とされてない訳で、ここに居る意味もない。
「賢人、待っ…て」
俺の背中にコウの声が追い掛けて来た。
「ごめんね……怒ってるよね」
「いや、別に怒ってなんか……」
「僕……賢人に、酷い事……言った」
「いや、コウの立場になって考えられなかった俺が悪いんだからさ」
「違う! 本当はいつも嬉しかったんだ。
でも、自分の生活や将来を犠牲にして欲しくなかった。
いつも賢人におんぶされるだけの僕に振り回されてさ……
賢人はこのままじゃ自分の人生を自分の為に楽しく生きられない……そう思ったんだ」
コウの大きな瞳からは、さっきの雨粒みたいに、涙が次々に零れて落ちた。
…そんな……
あの言葉は、俺の為に?
生憎ハンカチなど持ち合わせていなかった俺は、コウに近づくと手の平でその綺麗な涙を拭った。
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