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「ごめん、コタ。別れたいの」
「そっか。わかった」
そうして今日から私は、コタの元彼女になった。はずだったのに。
どうしてこんなことになっているんだろう。
ひと気のないベンチの上で、私の右手とコタの左手は今、指を絡めて繋がれていた。
「あの……コタ。なんで……」
「ここなら誰にも見られないよ」
「そうだと思うけど……そうじゃなくて」
絡んだ指から目が離せずにいる私の耳のすぐそばで、ふっ、とコタの息が鳴った。
「付き合ってたのに手、繋いだことなかったもんな」
コタの柔らかな声が、私の罪悪感を貫いた。
コタは黙ってしまった私の顔を見つめている。そして、繋いだ手を私のひざの上にそっと置くと、コタのすらりと長い指はするすると離れていってしまった。
「来週の水曜、またここで待ってる」
「どうして?」
「週に一回だけ、リッコの放課後俺にちょうだい」
「でも、別れたんだよね?」
「うん。……嫌なら、来なくてもいいよ。もし来てくれるなら、付き合う前みたいに、ふつうに話そうよ」
先に帰って、と言われたので、コタをベンチに残して木々のすきまをぬうように、古く湿った落ち葉を踏みながら歩いた。
上を見ると、そろそろ赤や黄色に色づいてきた葉たちが風に揺れている。
道ともいえない細道を真っ直ぐ歩くと、ひと一人分くらいの幅の柵がある。
高い音でキィと鳴るそれをうしろ手に閉めて、コタがみつけた秘密の場所を出る。
それでも同じような景色だったのが、目印の朽ち木を右に曲がると突然視界がひらけ、いつもの公園の光景になった。
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