第20話:真実

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第20話:真実

「ヴェルネルとレムリは自分が助けた国の人間達の手によって殺されたのよ」 「そんなの……おかしいじゃないか……」    少女の発言にアイレは項垂れるように膝をついた。  ヴェルネルとレムリは自分達が助けた国の権力者の手によって 無残にも殺されたという事実。 「でも……レムリは強かったんじゃないのか? そんな……やられるなんて……」 「レムリは強かった。とてつもなくね。でも……人間達の姑息な手には勝てなかった」 「……」 少女は項垂れているアイレに歩きてゆっくりと近づくと 額に手をやるような素振りを見せた   「私が見た……最後の日の映像をあなたに見せる事ができる。 あなたにはとてもつらいかもしれない。 それでもいいなら」 「もちろんだ」 「わかった」  少女はアイレの額に手を置いた 「覚悟はいい……? 目を瞑って」 「……ああ。 頼む」    アイレは覚悟を決めて目を瞑った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――― 30年以上前。ヴェルネルとレムリとインザームと。少女。 「ねぇ、私を置いて行っちゃうの?」  少女が言った。 「ああ、とても危険な場所かもしれないから。フェアは大人しく待っていてくれ」  アイレに対して映像を見せている少女の名前はフェアと呼ばれていた。ヴェルネルはフェアに対して、とても優しい目をしながら 膝をついてフェアの頭を撫でている。 重装備とまではいわないが、銀色に光った甲冑を身に付けていて帯刀している剣は魔力を帯びて青く光っている。    周囲の雰囲気からすると、どこかの宿の個室の様に見える。 「すぐ戻ってくるよ。フェアちゃん」 「うむ。ワシはともかく、この二人なら心配いらぬよ」  レムリとインザームだった。レムリは羽の装飾がついた自身の身長を超えそうなほどの魔法の杖を持っていて 一番上には母親からもらったレムリアンシードの水晶が付けられている。魔法使いに相応しい純白のドレスの様なローブを着ている。  インザームはアイレが見た事がある鎌ではなく斧を装備している。装備も重装備の大きな甲冑をつけている。 「この街の最北端にクルムロフ城という所があってね。 そこに魔王がいるという噂があるんだ。 そいつを倒せば…… この世界はもっと良い方向に向かっていくかもしれない」 「大丈夫だよ。私たちは絶対に帰ってくるから」  ヴェルネルとレムリはフェアに対してまっすぐ目を見ながら嘘をつかずに真実を話した。 「フェアよ。 お主は強いが、まだ子供じゃ。 この世界にはまだまだ多くの助けがいる。 いずれお主が必要な時がある』  インザームもフェアの頭を撫でながら笑顔を向けている。 「わかった。 じゃあ、ここで待ってる」  フェアは大きく頷いて、ヴェルネルとレムリとインザームが部屋から出るのを最後まで眺めた。  それから数時間後、フェアと呼ばれた少女は宿で大人しく待っていたが、ある声が聞こえてきた。  ハーフエルフは人間に比べて遥かに視覚、聴覚、嗅覚に優れている為、遠くで話している声でも耳に入る。 「……ヴェルネム様とレムリ様はもういったのか?」 「ああ、クルムロフ城に向かったらしい。 しかし……これでいいのか?」 「俺だって納得はしてない……だけど、何かあればセーヴェルの様に街だけで済むとは思えない。世界が壊滅するかもしれないじゃないか それに……レムリ様は奴隷に対して反対の体制を取っている。それも各国の王が決断した原因の一つだそうだ……」 「そんなの逆恨みじゃないか……」  この街で警護を担当している帝国兵士達の声だった。それを聞いたフェアはとんでもなく胸騒ぎをした。 ヴェルネルとレムリとインザームに何かが起こるような。フェアは宿の扉を開けて階段を降りると、帝国兵士達に対して問いただした。 「今の話どういう事? クルムロフ城がなに?」 「なんだお前? 子供じゃないか。 親はいないのか?」 「……なんでもない。早く部屋に戻れ」  フェアは帝国兵の片方に右手の掌を翳して、とんでもない威力の魔法を放った。 それをまともに受けた帝国兵は壁にめり込むほどの衝撃で吹き飛んだ。 「いいから……はやくおしえて! はやく!」  フェアは残った帝国兵に掌を向けた。 「お前……何者だ?」  フェアの耳の片方がピンと伸びていて片方は人間の耳になっている。 「はやく教えろ」  フェアはとんでもない殺気で帝国兵に魔力を向けた。それに対して怯えた帝国兵は全てを話した。    クルムロフ城でレムリ討伐作戦を各国の手練れの魔法使いを集めたと。それを聞いたフェアはすぐにクルムロフ城の場所を聞きだして 急いで向かった。 ――――――ヴェルネル。レムリ。インザーム。無事でいて……  クルムロフ城は湾上に浮かぶ小島の上に建てられた孤立した城である。元々は修道院の礼拝堂だったが 過去の戦争で城塞となり、王族が住む城になっていた。 「これは……」  小島には大きな橋がかけられ、城の周りは海で囲われている。  その端の手前からフェアはとんでもない違和感を感じた。  ハーフエルフのフェアは人間とエルフの二つの性質を持ち合わせている。その為、エルフ程の魔力はもっていないが 五感が鋭いという能力を持ち合わせている。特に魔力に関しては壁越しでも誰が誰だかわかるほどの探知能力を持つ。 「魔法不能領域が城の内部に発動してる……。 それにこの魔力の数は何!?とんでもない人数が……いる」 ――――――急がないと 「何よこれ! 壁……? ああもう!」  フェアは急いで橋を渡りクルムロフ城へ向かった。橋の真ん中に透明な強力な結界が使われていたが、それを瞬時に解析する事により 城壁までたどり着いた。 「この音と魔力……」  クルムロフ城の内部から止めどない魔力の流れと轟音が聞こえる。 フェアが城の入り口に侵入すると何人かの帝国兵が入口を守っていた。 「おい! 子供がなんでここにいる?」「なんだこのガキ?」 「うるさい!」  フェアは掌を翳して再び帝国兵を四の五のいわずに吹き飛ばした。  そして奥へ進むと、とんでもない人数に攻撃魔法を使われているヴェルネルとレムリとインザームの姿があった。  用意周到に反撃できないように高い位置から3人を狙っている。  レムリは魔法不能領域を何重にもかけられた上に不意打ちをくらったのかお腹から血を出していた。  それでも、精霊魔法を無理に使用してなんとか魔法障壁を出してヴェルネルとインザームを守っている。 「レムリ!」  フェアが近づこうとすると、透明な結界が邪魔をした。魔法不能領域の抵抗が高いのか、なかなか解析ができない。 「あああもう!」  フェアが見守る先で3人は魔法攻撃を受け続けていた。  ヴェルネルとレムリとインザームを待ち伏せして罠にかけた。 「なんだお前ら……何をするんだ! やめろ!」    ヴェルネルが魔法障壁の中で叫んでいる。  その中にはヴェルネルが助けた国で見かけた事がある魔法使いもいた。 「レムリ! もうよすんじゃ!」 「これが……なくなると‥‥…みんな死んじゃう……」  レムリはお腹から血を流しているが、それでも両手を翳して、魔法障壁を無理やりに出している。  自らの寿命を燃やすほどの魔力を消費しながら 「レムリ! 俺があいつらを八つ裂きにする! もうやめろ!」  ヴェルネルがレムリを見ながら悲痛な顔をしている。 「なぜ……私達を……もう……ダメ……」  レムリは気を失いかけると同時に魔力がほぼ底を尽きた。帝国兵と各国の手練れを集めたレムリ対策は 何重にも手厚く結界を張り、更には不意打ちでレムリに深手を負わせた。  魔法障壁が解けると同時にヴェルネルは全力で魔力を高め、剣にそれを通わせた。  レムリに向かってくる攻撃を魔法をすべて剣で切り裂いた。 「くそどもが! インザーム! 結界を破ることはできないか!?」 「あそこにいるのはフェアじゃ! ヴェルネル。少しの間…‥レムリを頼んだぞ!」  インザームはそう言うと、フェアの所まで行くと結界を斧で切り裂き続けた。  フェアは少しでも結界の強度を薄くしようと解析を続けながら皮を一枚一枚削ぐように解除していった。  その間にインザームを狙った攻撃魔法も飛んできたが、振り向いて斧で何度も魔法を切り裂いた。 「邪魔をするな!!」  インザームが結界を切りながら激怒した。 「……いける! インザーム!ヴェルネル!レムリ!」  フェアとインザームによって一部の結界が剥がされた。それでも結界は物凄い勢いで収縮しようとしている。  どこかで魔法使いが結界を再び閉じようとしていた。  フェアはそれを少しでも遅延させようと両手を翳して結界を止めている。 「だめ! 長く持たない!」 「ヴェルネル!レムリ!こっちじゃ! はやく!」  インザームも魔法を切り裂きながら結界の前でヴェルネルとレムリを呼んだ。 「私にだけ……凄い魔法抵抗があって……ここから動けない。ヴェルネル。私を見捨ててお願い」  レムリに対してだけ魔法抵抗と行動妨害阻止を詠唱し続けていた。レムリを殺すために。  ヴェルネルはその間にも無数の攻撃魔法を防ごうとその場でレムリを守っている。 剣だけでは凌げない攻撃もあり、ダメージも食らっている様子だった。 「インザーム! 僕達はここから動けない。フェアと……アイレを頼んだぞ」 「ヴェルネル!レムリ!」    インザームが叫んだ。 「ダメ……もう閉じる。インザームこっちに!」  フェアが遠くにいるヴェルネルとレムリを見ながら悲しそうな表情を浮かべている。 「なんでじゃ、なんでこうなってるんじゃ!!」  インザームが結界の外に出ると、結界は直ぐに閉じた。透明な結界の中には ヴェルネルが必死にレムリを守っている姿が見える。 「おまえら……なんでこんな事をする!? 俺達が何をした!? 」  その瞬間、ヴェルネルの右腕がある魔法攻撃によって剣と一緒に吹き飛んだ。  そしてすぐに左足も同じように吹き飛んだ。 「あああああああああああああああああああああああああああ」  ヴェルネルはそう叫ぶと全ての力を使って魔法障壁を自身とレムリを守る大きさを作った。  10秒程度しかもたない。最後の力だった。 「ヴェルネル……あなたは逃げられたのに……」  レムリはお腹から血を出して倒れながらヴェルネルの頬を撫でながら涙を流した。フェアが来るまでにも長い間抵抗していたせいで出血も止まらない。  ヴェルネルは右腕と左足がない状態で這いながら左手でレムリを抱きかかえた。 「僕は……元の世界で一度君を見捨てた事をずっと後悔していた。二度も見捨てたりしない」  魔法障壁の壁が崩れかけてヒビが入った。  アイレは元の世界でレムリが病院で亡くなる時寄り添ってやる事ができなかった。その事をいつまでも 覚えていた。……いつまでも後悔していた。 「フェア……いくぞ……走れ! ここから逃げるぞ!」 「でも……まだヴェルネルが……レムリが……」 「走れ!!!!!!!!!」    インザームはフェアに向かって叫び、フェアとインザームは後ろを振り向かずに走った。二人の最後を見るのがインザームは耐えられなかった。  ヴェルネルの魔法障壁が破れたと同時に城の内部から轟音が聞こえた。それでも、一度も後ろを振り向かなかった。  フェアの映像はここで途切れた。 ここまでがフェアが見たヴェルネルとレムリの最後の姿。   アイレはここまでの映像をフェアに見せてもらった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― そして、魔法障壁が遂に崩れる時 「レムリ。君の事を愛してる」 「私もよ。ヴェルネル……愛してる」  二人は唇を重ねた。その瞬間、無数の攻撃魔法が二人に降り注いだ。煙で見えなくなってもありとあらゆる攻撃魔法は長い間続いた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
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