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帰郷
高速バスに一人揺られていた私は、暇を持て余していた。
目的地は真賀月村。七年前まで住んでいたその地に戻ろうとしているところだ。
真賀月村は、東京から遠くて不便な場所にあり、鉄道の駅も遠いので、行くには高速バスが一番手っ取り早い。
運行予定表によると、新宿を出発したバスが「真賀月村バスターミナル」の停留所に到着するまで、約5時間の行程となっている。
行程が進むにつれ、窓から見える人工建造物がどんどん減り、都会から離れていくことを実感する。コンビニさえ滅多に見かけなくなると、そこがとても不便なへき地であると、都会で便利な生活を送っている私はどうしても感じてしまう。
その代わり、のどかな田園風景が広がっている。
最初の内は自然の景色を眺めていたが、変わり映えしなくてすぐに飽きた。
スマホもいじり飽き、暇つぶしになるかと、バッグから古い写真を一枚取り出して眺めた。
そこには、小学六年生の私と友人たちが写っていた。
小学校の校長室で四人が横一列に並び、それぞれの手には直前に貰ったばかりの人命救助の感謝状。
全員カメラに向けてそれをそれぞれの胸元に掲げていた。
この日から、早10年が経とうとしている。
貴重な写真だから、何度引っ越しても失くさないよう大切に持ってきた。
私の父は昔から転勤族。真賀月村も、父の転勤でついて行って数年間住んだだけの村。
私たち家族の住んでいた家は、会社の借り上げ住宅だった。つまり、実家が真賀月村にあるわけでもない。だから、ほとんど思い入れがない。
両親は今でも日本各地を転居し続けていて、私は、大学に通うため東京で一人暮らし中だ。
今は丁度夏休み。バイトでも入れようかと考えていたところに、親友の訃報を受けて、急遽、真賀月村に行くことにした。
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