ボクとキミと、桜の記憶

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 治療とリハビリをしている間、何匹かの犬、猫友達ができた。  その中でも特に親切にしてくれたのが、次郎爺さん。最初にボクに話し掛けてくれた柴犬だ。以前の飼い主は(しつけ)だと言って、彼の体を棒で何度も叩き、その怪我が原因で両方の後ろ足が動かなくなった。  この保護施設には、そんな人間の勝手で犠牲になった仲間が大勢いるそうだ。  ペットの可愛さに惹かれ衝動買いをした後、経済的な理由を付けて世話を放棄する者。鳴き声が煩いと腹を立てたり、ストレス発散の道具として虐待する者。衰弱していく姿を眺め愉しむ異常者。年老いた動物の世話が面倒になり放置する者、捨てる者。 動物の命を軽視する無責任な人間たち。 猫を多頭飼いしていた老人は、ある時、突然倒れてそのまま病死。室内に閉じ込められていた数十匹の猫たちは、飼い主の亡骸を食料にして飢えを凌いでいたと言う。  そのうちの数匹が施設に引き取られたのは、かれこれ七年前になるらしい。次郎爺さんは「最期に飼い猫たちの血になれて本望だろう」と、皮肉めいた笑いを浮かべていたけれど。ボクには想像を絶する話で、恐怖心しか湧かなかった。  施設内には次郎爺さんのような親切な犬ばかりじゃない。「おまえも不要になったから捨てられたんだ。俺達と同じだ」と、意地悪を言う奴も居る。  だけどボクは一緒じゃない。パパが怒ったのは、ボクが粗相をしたから悪いんだ。  捨てられる筈がない。だって、ボクは大切な家族なんだから。きっと探しに来てくれる。迎えに来てくれる。あの日、沙羅ちゃんとそう約束をしたんだ。
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