【Epilogue】[V ⇔ N]

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 いったん下がってお茶を運んで来た穏和な雰囲気の彼女が深々と一礼して去った後。  無言で大きなソファに中央を開けて腰掛けたまま、二人ともがカップを空にした。  話したいことが、──言いたかったことがいくらでもある筈なのに何も出て来ない。 「ネ、いえ、ナサニエル──」 「二人の時は『ネイト』でいい。いや、普通の呼び名だから人前でも構わないだろう。……ああ、でもそうだな。『先生』と切り離せないなら『ナサニエル』でも」  ようやく隣の“レティ”が口を開いたのに、結果的に口を塞いだ形になってしまった。 「……ネイト」  それでも彼女は、黙り込みはしなかった。 「そう。これからはそう呼んでくれ。俺は『ヴァイオレット』としか呼べないけど」 「今のわたしは『ヴァイオレット カーライル』ですから、『ヴァイオレット』と呼ばれるのは当然です」  ネイトが知っている、……知っていたあの“レティ”とはまるで別人のような、淑やかで気品のある「お嬢様」然とした清楚な声。  しかし彼女は、そこで不意に口調を変えた。 「──だけど、『レティ』だったわたしも消えてなんかいないのよ。秘密だから誰にも言ったことはなくても。ねえ『先生』」  それまでとは違って、昔のように親し気に。  ヴァイオレットとナサニエルになった二人の心の奥底には、この先も「ネイト先生と“レティ”」の時間が眠っているのだ。   ──ここからまた、始めよう。“レティ”、いや『ヴァイオレット』。俺たちの、新たな人生を。                              ~END~
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