(1)

1/1
93人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

(1)

 今日は、会社の歓迎会。久しぶりの宴席ということでアルコールもほいほい進む。いやあ、飲み会って楽しいなあ。  そう思いながら中座して化粧室へ行ったら、先日私に告白してきたばかりの先輩が、私の友人とキスをしていた。  ……飲みすぎた?  むしろ酔いは覚めた気がするのに、目の前のふたりは消えてくれない。濃厚キスからさらにくんずほぐれつな状態に突入したのを見て、ようやく我にかえる。廊下にある手洗い場であれはまずいでしょう。せめて個室の中でやれ。  ……うーん、なんだろうこのモヤモヤ感。いや、文句を言う筋合いもないんだけど。 「あら、山本さん大丈夫? 化粧室に行ったんじゃなかった?」  脳は働かないまま、自分の席には戻ってこれたらしい。なにそれ怖い。  顔見知りの女性社員に声をかけられ、私は口ごもってしまった。行ってすぐに戻ってきたせいで、心配をかけてしまったのかな。  とはいえ、一体何を伝えれば良いものやら。だいたい用を足したかったから席を立ったのに、その望みは果たされないままだ。地味に辛い。  昨日告白してきたくせに、速攻彼女ができただと? 私への告白ってなんだったの?  いや、そもそも本当に告白されたのか。手紙を渡されたわけでもないし、立会人がいるわけでもない。告白を受けたという記憶自体が、私の妄想だったのでは……? 最近仕事が忙しすぎたからなあ。  仕方がないので、現在確認できる客観的な事実だけを話すことにした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!