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翌朝、朝餉を出してくれたお輪に一つ咳払いをしてから告げた。
「明日、お伊勢さんに旅立つことは可能か?」
お膳を置いたまま正座していたお輪が大輪の菊を思わせる晴れやかさで頷いた。
「今日でも、行けますよ。実は用意してございました」
「今日?」
素っ頓狂な声が出た。
「ええ、今日。今日よりお志乃さんは犬でございますよ。私は犬のお供でお伊勢さんに参ります」
志乃はおかしくなって、声を出して笑っていた。
「気の早いこと」
「善は急げですよ、お志乃さん。桜は今が見頃です。花見をしながら参りましょう」
ふと不安を覚えて箸が止まる。
「旦那様は怒らないかしら?」
なんせ、生活の全て面倒をみてもらっている。そんな関係なのに一言もなく出掛けるのはまずい気がしてきた。
「お志乃さん、犬はそんなこと考えやしませんよ。大丈夫です。手紙を書いて参りましょう。お伊勢参りに行くと書けば万事上手く行きますよ」
自信満々のお輪を見ているとそうなのかと感化されてきた。
「実際、手回しはすんでおります。実は旦那様に掛け合いました。こちらのお屋敷にこないならお犬様を伊勢へと案内すると」
「まぁ!」
また素っ頓狂な声が出た。お輪には何度も驚かされる。
「慌てておりましたけどね。必ず帰ってくると約束したら行っても良いと。他の男と出来たりしたらいかんと、そこは重々承知しておかねばならぬと」
「まぁ! そんなことまで?」
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