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7 明日は明日の風が吹く
よくわからなかった。でも、先生の雰囲気から察すると、悪いことを言われたのではない気はする。
「お前、下園が好きだったんだな。確かにあいつちょっと可愛いよな。うん。いいと思う。俺は、あいつはお前の気持ちに応えてくれたと思うぜ。俺なんかいつも、即『せからしか!』だからな」
「はあ、どうなんでしょうか……。でも、一向に風は吹きませんね……」
結局、『風ごいの儀式』もむなしく、その後風は全く吹かなかった。
レースは、延期となり全員ハーバーに戻ることになった。
すべてのヨットのクルーがパドルを漕いでハーバーに向かった。
数十メートル先に下園小百合のヨットがいた。
下園が必死でパドルを漕いでいる。ここからは見えないけど、額に汗が光ってるだろうな。
ハーバーに戻ったらどんな顔で、彼女の前に立ったらいいんだ。
……なんて思っていたが、汗まみれでパドルを漕いでいるうちにもう、どうでもよくなった。
レースは無かったが、やることはやったのだ。
僕の中で、達成感のようなものが芽生えた。
僕は広い心の海に船出をした気分だった。
今まで恥ずかしくて、人前で大きな声など出したこともなかった。
それがいきなり告白だ。下園さんには、迷惑をかけたかもしれないけど、そうだったらあやまろう。ハーバーに着いてからのことだ。
パドルを漕ぐ手に力が入る。
海でのことは、海に置いていこう。
よか! 明日は明日ん風が吹くっさ!
終り
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