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最終話① 悪役令息は……
「アスランを初めて見た時、アンジェラに似ていると思ったんだ。もちろん聖力持ちの外見とは違ったが、瞳の温かさが……彼女を想起させた」
父の口から久々にその名が出て、俺は緊張を散らすように小さく息を吐いた。
友人達が邸に集まってくれたが、帰還を祝うのは後日にして、一度みんな帰宅してもらった。
ブラッドフォード邸の執務室には、父である伯爵と、俺とアスラン、兄のアルフォンスが残っていた。
全員集まったので、まずは家族で落ち着いて話す必要があると考えた。
「シリウスはアンジェラ……、母のことはあまり記憶にないだろう。繊細で美しく、愛情深くて優しい人だった」
「母様はシリウスのことは特別大切にして、心配していたよ。自分の病が深刻だと分かってから、自分のことを少しでも覚えていて欲しいとよく俺にも言っていた」
父の言葉に、アルフォンスも重ねて母のことを語ってくれた。悲しいかな、覚えていることはほとんどない。
抱かれていた記憶すらないことが、寂しかった。
「……私は、本当にだめな父親で、お前達のことを見ると、アンジェラを思い出して苦しくて、目を背けてしまった。そんな時、アスランに出会って、何をバカなことを考えたのか……アンジェラが持っていた深い愛情をアスランが息子達に与えてくれるのではないかと……。いや、今考えてもおかしいな、ブラッドフォード家の利益のためだと言いながら、頭ではそう考えていた」
「お父様……」
ゲームの世界のことを記した概要本には、ブラッドフォード伯爵がアスランを連れ帰ったのは、一族の利益の為とだけ書かれていた。
しかしその裏で、妻を面影を追い続ける夫の葛藤が描かれていたのだと思うと、胸が熱くなった。
今なら分かる。
最初は冷たくて、ただ自分の利益の為だけに生きる人だと思っていたが、本当は不器用ではあるが優しい人だということを……。
「お父様は優しい人です。確かに仕事ばかりで寂しい時もありましたけど、いつも支えてくれているのを感じていました」
「シリウス……」
「よくやっていた方だと思いますよ。酒や女遊びもしないで、ひたすら仕事に没頭して……。こっちが心配になるくらいでしたからね」
「アルフォンス……」
息子達の言葉を聞いた父の瞳には、わずかに光るものが見えた。
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