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秋晴れの空の下、アイネ=ムール学園のスタジアムには続々と人が集まってくる。保護者にその従者、あと隣接するバドラーアカデミーの生徒も集まって、もう既にすごい熱気だ。開会式まで後少し。生徒たちは、開会式に向けて入場待ちをしていた。
朝ちょっぴり寝坊をした俺は、兄様のおかげで集合時間に間に合う事ができて、準備に参加できた。すっぽかしてたらかなり申し訳ないし、気まずかったと思うので本当に助かった。
兄様に改めてお礼言わなきゃなぁ、なんて考えていると、「ルドルフ」と後ろから声をかけられた。
「あ!ロレンおはよう!」
「あぁ、おはよう。……ルドルフ、君の後ろ髪、少し跳ねているぞ」
「え、ほんと?今日、朝寝坊しちゃったからなぁ……」
「朝の準備の時からピョコピョコしていて、かわ……んんっ。……す、少し気になっていた。運動会始まる前には言っておいた方がいいかと思って」
「えぇ、恥ずかし!早く言ってくれたら良かったのに」
「はは、すまない。……あ、もっと右の……いや、そこじゃなくて、あともう少し上……」
ロレンの指示に従って寝癖が残る場所を探す。けれど、鏡がないこともあって、なかなか見つからない。
苦戦している俺を見て、ロレンは一度ぎゅっと口を結んだあと、俺の方に手を伸ばしかけた。と、その時。
「ここだよ」
ふわ、といい香りがしたと思ったら、ロレンの反対側からジェラルド様が現れた。ジェラルド様は、俺の跳ねたその毛先に触れると、「ふふ、しっぽみたい」と笑いながら手櫛で直してくれる。
ジェラルド様に触れられていると、神経の通ってないはずの髪先からなんだかピリピリした感覚が伝わってくる。
……な、何この感覚。さっきまで全然見つけれなかった寝癖なのに……。
そう戸惑って、何故だか顔が赤くなってくる自分自身に、さらに戸惑う。
「……あ、ありがとうございます、ジェラルド様。
ろ、ロレンも、教えてくれてありがとう」
赤い顔を隠すために俯いて、そうたどたどしく礼を言った。
(………………負けらんねぇ)
ロレンが何か小さく呟いた気がして顔を上げると、ロレンはジェラルド様を真剣な顔つきでジェラルド様を見ている。一方、ジェラルド様も一見は涼しげだけど本気が伺える瞳で見つめ返している。
「……俺、ジェラルド殿下には、負けたくありません」
「ははっ、奇遇だね。僕も君には負けたくないよ。
……まぁ、あんな感じで素直になれないようじゃ、勝ち目は僕にしか無さそうだけれど?」
「なっ……!!まだまだこれからのことは分かりませんよ!!」
両者、俺を挟んで対峙しながら、睨み合う。
その姿は、とても絵になってカッコイイけれど…………。
「あの…………俺たち三人とも、同じチーム……だよ?」
まさか寮別対抗の運動会なのに、二人とも戦うつもりだったとは。闘志に燃えてるのは良いことだけど、今日は赤薔薇寮みんなが仲間だよ!?
困惑しつつそう伝えると、二人はポカンとした後、同時にふわりと破顔した。
「そうだね。今日はみんな仲間だね」
「あぁ。赤薔薇寮が優勝できるように頑張ろう」
二人が笑顔でそう言った時、入場のファンファーレが鳴り響く。
「生徒入場!!一寮目は赤薔薇寮!」
その声とともに大きな扉が開く。
俺たちはワクワクしながら、第一歩を踏み出した。
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