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出会い
桜が散って新緑が芽吹き葉桜となったこの季節、受験生になった僕は意味もなくベランダからひと月の中で一番明るく輝く月を眺めていた。とても美しいこの世界とは裏腹に僕の心はとても暗く濁っていた。
「死んだほうがましな人生だな」
僕がそう呟いたことが合図だったかのようにどこからともなくピエロのような仮面をかぶった何者かが目の前に現れた。
「毎日楽しく過ごしたくはない?」
その摩周湖の水面のように透き通った声からこのピエロが少女であることが分かった。それよりこのピエロはいったい何者かという疑問が頭の中に湧き出たがそれを隅に追いやり質問に答える。
「別に、どっちでもいい。もうあきらめてるよ」
そうぶっきらぼうに返した僕だったがそれが本音なわけがない。こんなわけのわからない変質者に本音など話してたまるか。
「この仮面をかぶれば毎日笑って過ごせるよ。私みたいにね。どう?」
僕の言葉が本音でないのをわかっているのかはわからないがピエロは仮面を差し出した。怪しいにもほどがある。
でも僕には本音を確かめるすべがある。僕は人の心の声が聞こえるのだ。この忌々しい能力がこんな形で役に立つとは思わなかったがこのピエロに騙されるよりはいいだろう。
「あんたは毎日楽しいのか?」
「もちろん楽しいよ!」
(死にたい)
おっと、思った以上にヘビーな本音が聞こえてきたがこれでひとまずこいつの言うことは信用に値しないということが分かった。
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