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「おい、なんの騒ぎだ!? なにがあった!」
クロの絶叫が聞こえたのだろう、ウタさんとサヨ君が血相を変えて駆けつけてくる。
土砂降りの中地面に座り込む僕を見てなにかを悟ったのか、彼らはさっと顔を青ざめさせた。
「シロ、どうした。なにがあった」
「シロさん、兄さんは……? 兄さんはどこです?」
狼狽する親子を見ているうちに、混乱に陥っていた頭が次第に冷えきっていく。
気付いたときには、僕は衝動的にウタさんの胸倉を掴んでいた。
「ウタさん、貴方、なにを知っているんですか」
僕がすごめば、面食らったように金色の目が瞬く。
サヨ君が慌てて僕を引き剥がそうとするのが視界の隅で見えたが、僕は強引にそれを振り払った。
「貴方、さっきクロのことを『息子』って言いましたよね。サヨ君だってそうだ。クロのことをずっと『兄さん』と呼んでいる。これはどういうことなんですか」
クロと貴方達の関係はなんなんですか。クロはなにを隠しているんですか。
──貴方達は、本当はそれを知っているんじゃないですか?
僕が怒気を滲ませて問いただせば、サヨ君は狼狽えた顔でウタさんを一瞥した。どうしようと雄弁に語るその目に助けを求められて、ウタさんは深い溜息を漏らす。
「……別に、君だけ除け者にするつもりはなかったんだ。だけど、クロが打ち明けたくないのなら、僕達も言うわけにはいかないと思っていた」
やんわりと僕の手を外し、ウタさんは悲しみに満ちた眼差しで秘密を打ち明ける。
「クロはな、母親に捨てられたんだ。この店のガラクタ達と同じ、理不尽に人に捨てられた可哀想な子供なんだよ」
皮肉な事実に、僕は呼吸が止まりそうになる。
耳もとでは、雨粒が地面に叩きつけられる重たい音が延々と木霊していた。
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