尾木誠也

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尾木誠也

カノジョが、僕の日常から消えた。 僕にとってカノジョは、無色の時間に(いろ)を与えてくれる唯一の存在だった。 カノジョは、僕の曖昧な境界を越えた初めての(ひと)。 そんなカノジョが、消えてしまった。 最後に逢った日も、きつく抱きしめキスをした。 何度も、何度も。 カノジョの唇から漏れる熱い吐息も、折れそうに華奢な肩も、まだはっきりと覚えている。 僕はまだ「愛している」の途中だ。 雨の日には、カノジョを奪ったあの忌まわしい事故現場に足を運ぶ。 僕が捧げるのは、白い薔薇の花一輪。 傘を叩く雨音は、鎮魂歌などではない。 そう、カノジョの足音だ。 だって僕達の「愛」は、まだ壊れていないのだから。 大学の友人との飲み会は、いつも居酒屋だ。 本音はあまり参加したくない。 ここは、人が発する熱が不快に纏わり付くし、声は兇器のように耳を刺してくる。 「誠也!こっち!」 いつも一番に僕を見つけるのは、桃花(ももか)だ。 高校の同級生で、大学もサークルも一緒になった。 ただの腐れ縁だ。 それより、このサークルには感謝している。 僕とカノジョを巡り会わせてくれたのだから。 入学そうそう部員を獲得する為に、校門までの一本道は争奪戦となっていた。 運動部は派手に勧誘していない。 実績さえあれば、頼みもしないのに新入生が押し寄せてくるからだ。
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