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【01】 死神は鎌を持たない
昔から、何かと上手くいかない人生だった。
それならいっそ、捨ててしまえばいい――そう気づくのに、時間がかかった。
「会社の屋上から飛び降りたら、少しは復讐になるかな」
ヒールを脱ぐと、コンクリートのひんやりした感触が足の裏から伝わって来る。
よくドラマで見るシーンのように、ヒールを地面に並べ、フェンスを乗り越えようと足を持ち上げ――
「そこに扉がありますよ」
後ろから声を掛けられ、私は足を下ろした。
振り返ると、火のついていないタバコをくわえた黒いスーツの男の人が立っている。
真っ黒な髪を後ろに撫でつけ、銀縁の眼鏡をかけた目は切れ長で鋭い。
何となく、冷たさを感じる表情をしていた。
30代~40代といったところか、どこか貴族みたいな雰囲気を感じるのは、手にしているアンティーク調のライターのせいかもしれない。
「…え。……あ、」
飛び降りようとしているのを、止められなかったことに驚いた。
こういう時に現れる人って、飛び降りを止めに説得しに来るんじゃないの?
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