序章 我愿意相信

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序章 我愿意相信

「悪いことをしたら炎帝魔祖(えんていまそ)に呪われる」 幼いこどもはそう言い聞かされて、育つ。 一国をその身一つで絶望へ、地獄へと叩き落としたその魔の名を、人々は恐れる。 悪神 全ての悪事の根幹には彼が居り、人が死ねば炎帝魔祖(えんていまそ)の性、強盗が起きれば炎帝魔祖(えんていまそ)の性、流行病(はやりやまい)がはやれば炎帝魔祖(えんていまそ)の性。 人々にとって都合の悪いものは全て、炎帝魔祖(えんていまそ)の性にされた。 それほどまでに、彼の所業は残酷であったのか。 無慈悲であったのか。 悪神にふさわしき、人間であったのか。 そんな疑問を持つ者は、現れることはない。 言い伝えられていること、聞かされてきたこと、それが全てであり人々にとって真実など、無価値に等しい。 かつて皇子であった人間が、なぜ魔に墜ちたのか。 なぜ、己の家族を手にかけたのか。 彼は、何を想っていたのか。 それが明かされることは、これから先、永久に、ない。 呪いに呪われ、その身を焦がされた一人のちっぽけな人間のために。 真実は永遠に葬り去られていたままの方が、誰にとっても、都合が良い。
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