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「ごめん。雪刹が嫌がるのは分かってたけどこの方法しかなくて」
「どういうことですか?」
あえて広高を見たのは彼の立場じゃなければこの状況を作ることが出来ないからだ。
「護衛としてお前の傍に居るためだ」
「雪刹が参列する葬儀はマフィアのボスの葬儀なんだろう?何が起こるか分からないって聞いてどうにか潜り込めないか、って思って…」
「確かにそうですが日本から視察に来た刑事がFBIと一緒になって現場に立つなんて不可能でしょう?あなたに何かあれば国際的な責任問題ですよ」
「その通り。こっちは俺のクビ、日本は榊と言ったか?そいつのクビがかけられてる」
広高の説明に弘一は気まずそうに補足した。
「今回の視察団の件には榊さんの息が掛かってたみたいで責任云々の話になった時に啖呵切ってくれたらしい。あの人、敵も多いからあわよくば失脚させる目論見で賛同者が集まって話は何とかまとまったって」
「榊があなたのためにそこまでするのは理解出来るとしてー」
ジト目で見てくる雪刹に広高は大きなため息を吐いた。
「こいつが一番最悪なカードを切ったせいだよ」
「…もしかして晟那に連絡したんですか?」
おずおずと頷く弘一に雪刹も深いため息をこぼした。
「こんなに影響力があるなんて思ってなかったんだ。とりあえず雨木さんに連絡さえ付けば土下座してでも頼み込もうと思ってただけで…。状況を説明したら一時間も経たずに話がまとまってて雨木さんが迎えに来てくれた」
「弘一さん。晟那に軽々しく頼みごとをしてはいけません。ことによっては彼は白を黒にも出来る人間ですから」
落ち着いた声で諭す雪刹に弘一は素直に頷いたのだった。
「それで、現場はどういう状況になっているんですか?」
「現場の警備に立つ地元刑事たちと一緒に視察団メンバーも加わる。銃の携帯はさせられないからメンバー全員に一人ずつうちの人間を付けた上でのペア行動だ」
「俺のパートナーは雨木さんで出来るだけ雪刹の傍に居るから」
「どうせお前はファミリーと同列扱いで参列するんだろう?」
「そのようですね」
苦笑する雪刹に弘一は告げた。
「視察団のメンバーは学歴だけの刑事じゃないから心配ない。現に警備の穴を見つけて貢献もしてる」
どや顔の弘一と不本意そうに頷く広高に雪刹は思わず笑ってしまった。
「あなた達が居れば私は何も心配することはありませんね」
胸元で通知音が鳴り、スマホを確認すると雪刹は二人を見た。
「迎えが来ました。行きましょう」
先に行く広高に続く弘一の二の腕を雪刹は引き寄せた。
「約束してください。くれぐれも無茶はしないこと。あなたの行動によっては広高が体を張ることになりますから」
あえて広高を盾に警告する雪刹の意図を悟り弘一は笑って見せた。
「大丈夫。雪刹も雨木さんも俺が絶対に傷つけさせたりしないから」
頬を掠めるようなキスをすると弘一はポンッと雪刹の胸元を叩いた。
「そのスーツ、めちゃくちゃ似合ってる」
唇の端を引っ張って笑顔を見せる弘一に雪刹の不安もおのずと消えて彼の背中を追うようにしてホテルを後にした。
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