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「蒼次さん、お食事のお支度できました」
瑠璃は草履の音を鳴らし、庭掃除していた蒼次に呼びかける。
「ありがとう、瑠璃」
瑠璃石の簪が日に当たって煌めくのを、蒼次は目を細め眺めた。
「今日も瑠璃は美しい」
瑠璃を愛しそうな眼差しで見つめ、そっと髪を撫でる。
その右手には、同じ青色の石の念珠が光を放っている。
「やだ。寝ぼけているんですか?」
そう言ってくすくす笑う瑠璃に、蒼次は笑わない。
真剣な眼差しで、じっと瑠璃の瞳を見つめる。
「寝ぼけてなんかない。きっと来世の俺も、瑠璃に惚れるだろう」
「じゃあ、来世の私も、あなたに惚れますね」
次のわたしも、その次のわたしも。
瑠璃はこれ以上ない幸福を感じて空を見上げ、降り注ぐような天青を身体一杯に味わった。
「朝からいちゃつかないでください。朝げの前に、満腹になってしまいます」
「藍之助っ!」
藍之助が舌を出して、蒼次の箒を奪った。
「兄さん、早く終わらせて姉さんの料理をいただきましょう」
「そうだな」
嬉しそうに、藍之助に微笑みかける蒼次。
「ちょっと焦げた匂いがしますが」
「いいんだ。失敗しても、瑠璃の料理はなんでも美味い」
「ちょっと二人とも!」
三人はいつまでも笑って、今日という尊い一日を噛みしめる。
ピールーリーと美しい囀りを響かせ、二羽のオオルリが飛び立っていった。
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