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「ゴホッ、ゴホッ……あ、それはまぁ……済んだことですので」
「はい。済んだことですから、ここははっきりリヒタス様の口から聞きたいのです。まぁ……大体の予想はついてますが」
「恐らく予想通りですので、僕から話す必要は……いえ、お伝えさせていただきます」
年上のフェルベラに気圧されたリヒタスは、そっと視線を外して語りだした。
「フェルベラさんは、妹君の婚約者に一方的な想いを寄せていましたが、想いが叶わないと知るや否や激怒され……その……お相手の男性を回し蹴りした、と伺ってます」
──違うんですか……いえ、違ったようですね。
恐ろしいほど無表情になったフェルベラを見て、リヒタスは全てが嘘であったことを知る。
だがフェルベラは言い足りないようで、お茶を3口ゆっくりと味わってから訂正を入れる。
「真実はもっと笑い話ですわ。婚約者だった男は、2つ年下の妹に心変わりしただけですの。そして元婚約者があまりに不誠実な態度を取ったので、わたくしもそれに相応しい行動を取っただけですわ。ほほほっほほっ」
笑い話を締めくくるように、豪快に笑い飛ばしたフェルベラとは対象的に、リヒタスはゾッとするほど冷たい目をしている。
あ、ムキになってしまったが、さすがに嫁ぎ先の男に話す内容じゃなかったなとフェルベラは内心冷や汗をかく。
でもリヒタスの怒りは、フェルベラに向けてのものじゃなかった。
「なぜそんなゴミクズのような男を斧で真っ二つにしなかったのですか?」
「……は……い?」
あまりに物騒過ぎるその発言に、フェルベラは目を丸くする。
一瞬、これはルグ領ジョークかと思ったが、向かいの席に座るリヒタスはどこまでも真顔だ。
「お、斧が目に付くところになかったので……」
「そうですか。都会は何かと不便なんですね」
最果ての地の民に同情されたフェルベラはとても複雑な気持ちなる。
でも彼の発言は、物騒さをかき消すほど嬉しかった。
「ありがとうございます、リヒタスさん。おかげで気持ちが軽くなりました。ダチョウ女と二つ名をもらえるほど蹴りは上手くはないですが、これからどうぞよろしくお願いします」
晴れやかな笑顔を浮かべるフェルベラに、リヒタスも顔を綻ばせる。
「僕こそ。君に会えて良かった。実はルグ領は閉鎖的なところだから、君が嫌だと泣いてしまったらどうしようかと不安だったんだです。こんなにも早く笑顔を見せてもらえて嬉しいです」
天使のような神々しい笑みを間近で見て、フェルベラは目がチカチカする。
でも、それだけ。
だって二度目の婚約者には、なぁーんの期待もしないと決めているから。
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