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「やっべぇどうしよう……」
テレビで桜の開花予測が流れ始めた3月初めの土曜日。春休み中の俺は様々な種類のケーキが入ったガラスケースの内側で頭を抱えていた。
母親の姉、つまりは俺にとっての伯母が夫婦でケーキ屋を営んでおり、土日や長期休暇時にここでバイトをさせてもらっている。今日も朝からシフトが入っていた。
ケーキ屋の3月はひな祭りや卒業などのイベントがあるのでそこそこ忙しい。裏で伯母夫婦がケーキを作り、俺は表で接客をするのが常だった。
お客さんが途絶えたお昼時、ため息をついたら、伯母さんが顔を覗かせた。
「何をそんなに悩んでるの、あっくん」
母と2歳違いの伯母さんは少しふっくらとしていて目尻が垂れている。よく笑うので笑い皴があり、雰囲気はおっとりとしたクマのプーさんみたいな人だ。蜂蜜の代わりにホットココアを手に持って、よく俺に差し入れてくれる。奥にいるパティシエの旦那さんは豪快に笑う人で、たまに裏からガハハと笑い声が聞こえてくる。
そんな2人の間に子どもはいない。恵まれなかったらしい。なので俺のことをすごく可愛がってくれる。正直母より遠慮なく喋れたりする。俺は伯母さんにこぼした。
「2年生になるからさ、履修登録しなきゃいけないんだけど、どうしようかなって思ってて……」
「履修登録?」
「自分で2年生の時間割を作るんだよ。なんとなく小学校の先生になりたいなーって思って今の大学入ったけど、幼稚園教諭にも興味湧いててさ……」
「両方の資格、取れないの?」
「いや、取れるんだけど、俺が幼稚園の先生って……なんか、変じゃない?」
保育園の先生や幼稚園の先生といったら看護師さんみたいに女性がなるものだと思われる節がある。実際現場では女性が多いので仕方のないことではあるが、男女平等社会で保母さんや看護婦といった呼び名が保育士や看護師に変わったのだから偏見はよくない。よくないのに、同じ教育学部の友人に「幼稚園の先生も気になるんだよな」と打ち明けると、大いに笑われた。
「明浩が幼稚園の先生? ウサギのエプロン着て? ぎゃはは! コスプレかよ!」
こいつにはもう何も相談しないと心に決めた。友人をやめようかとも思ったくらいだ。
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