改札口

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改札口

交差点の改札口を右に曲がり、左にうねりをあげ、捲し立てる。 誰もいない、その駅の改札口、明日葉サクラが、いた。 どうした? ? 何かあったのか? 答えようとしない僕をみて、明日葉サクラは、寒々とした空を見上げている。 傍に貴方をこんなにも愛したオンナが居るって事すら、最早忘れてた彼は、明日葉サクラのその冴えない返事口調に、何処か諦めのムードが漂っていた。 独りで生きる事。 お互い、自分の人生を生きよう。 それが出来て、初めて僕らは対等なんだ。 当たり前の事、忘れたろくでなしの僕は、明日葉サクラに、まだ未練が残っていた。 明日葉サクラの声は、いつも、鮮明に覚えている。 曖昧な声で彼女は言った。 貴方が、大好き。 クスッと笑って、彼女は襟足の永いskirtに(きびす)を返した。 駅のホームには、アナウンスが、線内に飛び越えない様に、警告を促している。 誰も、自殺しようとはしなかった。 死ぬ迄して、命を賭ける、そんな馬鹿げたゲームは誰もしなかった。 命が惜しい。 弱いと悟り、やがて、駅に停まる0番線ホームの車内は、東京行きだった。 私は躊躇いもなく、その線に乗り込んだ。 もう、後戻りは赦されない。 私は、前だけしか見えない事に、後ろは振り返られない事に、一瞬、恐怖心で、明日葉サクラを振り返った。 その最後のチャンスを必ず、その手に納めて。 同じ高みを目指している、人間達が、貴方の事を待っている。 全てお見通しだった。 明日葉サクラの、その霞ゆく消えゆきそうな、儚げな涙は、一生、僕を捉えて離さなかった。 全てが、私の手中に有った僕は、それより優れた未知のバケモノを、飼い続けた。 慣れてしまった獣は、先ず、ヒトの(まなこ)を、シカと見た。 人の目を、間近に見て、人はこの人を初めて自覚する。 父親が、私の目を見つめてませんでした。 それで、彼が言う事を護ろうと想いました。 口だけ達者な奴より、失敗して、痛い想いして来い。 明日葉サクラは、既に、桜の花ビラとなって、舞っていた。 僕は、誰もいない、青空の中、漂うその、儚さを、愛した。 愛しい日々、バイバイ。
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