崩れつつ…も

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「アンタ、奈緒と奏斗に何したのよ。」 奈緒と奏斗がそれぞれ県外へ出てから半年後の春。 結梨は小6クラス会に集まった会場で光太に怒り狂っていた。 「も…申し訳ありません…」 光太は結梨に頭を踏んづけられ、額は床に着き土下座をさせられていた。 周りの友人たちは何があったんだとざわつく。 「申し訳ありませんじゃないわよ!このど変態高校教師!!変態過ぎて反吐が出るわ!お前の彼女にならなくて良かったと今心の底から自分に感謝するわ!」 結梨の怒りに未紗、由真、怜は落ち着けと一生懸命止めるが結梨の怒りは一向に収まる気配は無い。光太は正座させられ、他の友人達も未紗たちから光太が奈緒と奏斗にした事を詳しく聞いた後、変態過ぎて何も言えんわと呆れられていた。 「もう二度とあの2人の邪魔はしません…」 「当たり前だろ?!バカなのか!?マジであんたの教え子気の毒なんだけど?!ほんとマジキモい!!」 結梨は延々毒を吐き続ける。 「ところで今あの2人は…?」 「アンタなんかに教えないわよ!私だって…こないだおばさんから聞いたのよ!?奈緒、ひっそりと県外へ行っちゃって、奏斗も修行で東京行っちゃって!」 「奏斗、東京なんだ。」 「結梨!」 「あっ!!」 未紗にツッコミを入れられ、結梨は口を抑える。 「とにかく!光太!アンタのせいで結婚間近の2人が別れ?ちゃったのよ!?死ぬまで反省してろ!」 「はい…。」 光太は結梨に頭から何度も水をかけられただただ俯いてばかりだった。 「あと!アンタ!私の親友を傷付けた事は一生許さないから!呪ってやる!!この、くそ光太ぁ!!」 「ごめんなさい…」 そしてクラス会はカオスな状態で進行して行った…。   「田辺さん!ドクターヘリ出動だから急いで準備して!」 「はい!」 あれから2年。 奈緒は隣の県の大学病院のドクターヘリの看護師として働いていた。 田舎の山間部も管轄であり、出動回数も多い地域だ。 日々学ぶことも多く、慌ただしく大変だが充実して過ごしていた。 奏斗と離れて半年過ぎた頃から一日一度のLINEをする事も無くなり、その後はもう連絡は取っていなかった。  寧ろ逆に連絡が無い事が互いの元気だという合図になっている気さえしていた。  一方奏斗は東京でフラワーデザイナーとして華々しく過ごしていた。東京での修行中に奏斗の作品がテレビに取り上げられ、業界でも引っ張りだこになり毎日が忙しくなってしまい、いつの間にか奈緒に連絡をする事も無くなっていた。 元気ならいいと思い、自身もデザイナーとしてもっと成長しようと決めていた。 「奏斗さん!テレビ局の取材で奏斗さんのご実家へって話があるんですけど。いいですか?」 ある日マネージャーが奏斗の元へやってきてオファーの話を幾つか持って来た。 「へぇー、取材かぁ。面白そうだな。実家へも…もう2年戻ってないし。」 「え?帰省してないんですか?」 マネージャーは不思議そうに聞く。 「ああ。何か帰りたい気もしないし、帰る理由も無いし…。」 奏斗は俯きながら薄く笑う。地元へ戻ると奈緒との楽しかった生活を思い出して辛くなる事、光太への怒りが止まらなくなりそうな事、そして奈緒に申し訳ない気持ちになって永遠に前に進めなくなるんじゃないかと思い避け続けていた。 「じゃあ…ご実家への帰省取材はお受けしても?」 「ああ。父さんと母さんには連絡しておく。取材元にオッケーしといて。」 「わかりました。」 マネージャーは取材の承諾の返事をする為秘書室へと戻って行った。 「田辺さん!何か…お客様見えてるけど?」 「へ?」 同僚に呼ばれ、病院入口ホールまで走って行くと見た事ある様な後ろ姿の男性を見つけた。 「眞人…君?」 「奈緒さん!お久しぶりです!突然すみません。」 奏斗の弟の眞人がホールに居た。 「どうしたの?!てか、何で私が此処に居るって…っていうかこんなど田舎の遠くまで…」 奈緒は驚きを隠せず目をパチクリさせていた。 「奈緒さんのお父さんに教えていただきました。」 「え?うそ?よく話したなあの人…普段なら個人情報です!って言わない人なのに…」 奈緒は父の性格をよく把握しており信じられないと更に驚いていた。 「多分…お父さんも奈緒さんと兄貴がやり直してくれるのを期待してるんじゃ?」 眞人がふっと笑うと奏斗とよく似ており、奈緒は何となく胸が締め付けられる思いがした。 「そうかも。ここへ越してくる前も…奏斗君の気持ちはどうするんだ?って…」 奈緒が俯くと眞人は奈緒の肩を持った。 「奈緒さん、正直に話してください。今でも…兄の事…今井奏斗を愛していますか?」 「え?」 「…正直に話してください。」 奈緒は唇を横にキュッと結んだ。
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