43-1

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 街を彩るツツジがいつの間にか紫陽花に変わり、梅雨を迎えた6月下旬の土曜日。  堅苦しいのは性に合わないからと、ようやく住み慣れた転居先に互いの両親が遊びに来ている。  ここに、呼ばずして自分もとついてきた真彩に加えて、偶然遊びに来た慶太郎の姿もあるが、それはそれで置いておく。  元々は4LDKだった間取りをフルリノベーションした築37年のマンションは、リビングが広い3LDKSの二人暮らしには勿体無いほどの優良物件だ。  初めての顔合わせとなった親たちは、最初こそ緊張していた様子だったが、悠仁の母が持ち込んだ手作り梅酒で乾杯した辺りから、だいぶリラックスして息子たちの話題もそこそこに互いの親睦を深めている。  男手一つで絋亮を育ててきた彼の父の話に、悠仁の両親は強く感銘を受け、これからは家族同様に交流を深めようと何度も乾杯している様子が微笑ましい。  真彩は久しぶりに再会した慶太郎と積もる話があったのか、親たちが盛り上がっているすぐ隣で、女子会よろしく恋バナに花を咲かせているらしかった。  転居に関してはここに決まるまで少し大変だった。  物件の相場がそれなりに高いこともあって、二人が希望するエリアではルームシェアに否定的な管理会社が多く、一時はここら辺での部屋探しも断念しかけたくらいだ。  けれど絋亮の知り合いの中に、この辺りでマンションを所有している知人が居るとの噂を聞きつけ、思い切って相談したところ、ようやくこの家に巡り会えた。  内見して一目で気に入ってすぐに契約し、5月に入ってからやっと引っ越しを終えるに至った。  絋亮と悠仁は並んでキッチンに立ち、昼食の準備をしながら、家族の楽しそうな顔を眺めて顔を見合わせる。  これから始まっていくことだが、こんなにも心強い安心感を与えてくれる、支えてくれる家族や友人が居ることに感謝して、どんなことでも乗り越えていこうと言葉もなく誓い合う。
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