擬態

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 ピザトーストはイタリア料理ではなく、生地がなくても簡単にピザの味が楽しめるよう日本人が考案したらしい。前の東京オリンピックごろの話だというから、私が物心ついたときにはすでに身近にあったのだろうが、その存在を知ったのは高校生になってからだ。  友人の紹介で商業高校の女生徒を紹介され、初デートだった映画の帰りに喫茶店へ寄ったとき、その彼女の勧めで食べたのが最初だった。学校の売店に置いてある惣菜パンより豪華でうまいと思った。とくにチューインガムのように口から伸びるチーズが気に入った。  ピザトーストは堪能できたものの、その娘とはそれっきりだった。その翌日、友達経由で交際をやんわりと断られた。私はその理由を、選んだ映画がゴジラシリーズだったからであり、喫茶店での子供じみた食べ方や、あるロックミュージシャンを真似た、重力に逆らったような刺々しい髪型のせいではないと自分を慰めた。  初秋を思わせる日曜の朝、ダイニングテーブルに出されたピザトーストを見て、そんな回想に浸りながら私は遅い朝食をとっていた。 「―なあ、このニンジンで作ったスープは、なんて言うんだ?」
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