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〜エピローグ〜
──────2022、5月──────
ノートパソコンに向かい来月の予定を立てながら軽くため息を吐いた。
─── 来月……本格的にマズイな……。
まだオープンして数ヶ月にしては、客足も良く売上もあげている。
しかし、その反面スタッフは確実に足りていなかった。
今は自分とチーフが休みを削って出ているが、それにも限界がある。
ましてチーフにはそう無理をさせる訳にはいかない。
大きなため息を吐き、もう一度シフトを確認していく。
「…………マネ……ジャー」
どこかで声がするのに軽くイラつきながら、それでも目の前の事に集中する。
「……ネージャー……藤……さん……──藤井さん!」
「はい!?」
背中越しに名前を叫ばれ、藤井はやっと自分が呼ばれていたのだと気付いた。
「もう!さっきから何度も呼んでるんですけど!」
チーフの千尋が凄い剣幕で睨みつけている。
「ごめん、ごめん……来月のシフト組むのについ集中しちゃって……」
藤井は申し訳なさそうに笑うと
「何かあった?」
ノートパソコンを閉じ千尋へ向かい直した。
「──は!? 「何かあった?」 じゃ、ありませんよ!今日面接入ってたの忘れちゃったんですか!? もう来てさっきから待ってますよ!」
また凄い剣幕で怒鳴られ藤井は「あ……」っと小さく声を上げた。
「あ……じゃないですよ!もう……早く来て下さいね!」
「分かった。ミーティングルームだっけ?すぐ行くよ」
藤井が笑顔を向けると、千尋はもう一度「もぅ……」と言ってへ事務所を後にした。
その後ろ姿を見送ると藤井も小さなため息を吐き、面接の準備を始める。
この店がオープンする時にオーナーにわがままを言って千尋をわざわざ連れてきた。
仕事での付き合いも長く信頼しているし仕事も出来る。
しかし……恐い…………。
藤井は制服の胸にペンを挿しファイルを持つとミーティングルームへ向かった。
ノックをして扉を開ける。
すると高校生らしく制服を着たままの少年が振り向き立ち上がった。
男にしては白すぎる肌と……
色素の薄い茶色の大きな瞳…………。
─── 零………………
「あ……あの、成瀬葵です。よろしくお願いします」
頭を下げる少年をじっと見つめて藤井は何も言わない。
「──マネージャー!」
少年の向かい側に座っている千尋に呼ばれ、藤井はハッと我に返った。
「あ…………すまない……」
冷静になりながらもう一度少年を見ると、確かにどこか似てはいるが、間違える程では無い。
胸の中で苦笑いする。
そして緊張しているその少年の向かい側のもう1つの椅子に腰掛けると
「初めまして。──僕がこの店のマネージャーの藤井直斗です」
優しく微笑んだ。
───俺は今でも零のいなくなった夢の中を歩き続けている。いつか──覚めることを夢見て…………。
〜end〜
今まで読んで頂きありがとうございました。
読んで下さった皆さんに感謝です。 海花
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