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「つまりだな、ゼキ、わたしをものにするなら今こそ好機だぞ。あえて元気な時のわたしに触れて病に突き落とすのは、そなたとしては忍びないであろうが……。逆に、既にこうして元気のないわたし相手であれば、もう少しくらい具合が悪くなったとしても罪は浅い。そうは思えぬものかな?」
「……わたしはこうも騎士としてしか生きられぬというのに、あなた様は時々、御心が玉座から離れておられるように思えます」
「それはそなたが悪い……。心はそんなにもわたしに捧げているくせに、どうしても体ごと近づいてこようとはせぬゼキが悪い」
「そうですね……わたしは悪いのです。すべてを陛下のお立場とご病気のせいにして逃げ回っているだけなのかもしれませぬ。……そう、まさにそのしっぺ返しなのでしょうが、今日は大変悔しい思いを致しました」
「悔しい思い?」
「思い出されませ、陛下が御覧になったという夢の話でございます。夢の中のゼキは愚かにも、鳥になられた陛下に最後まで気づくことができなかったとのこと……。されど本当のわたしならば、たとえ陛下がいかようなお姿となられようとも、必ずすぐに見つけ出せる自信がございます」
「えっ……」
「ですが、そのような自信は所詮独りよがりなもの。陛下への想いを秘めてばかりいるのではなく、普段からもっとお伝えしていれば……どれほど離れたところにいようとも、きっと寂しい夢などお見せせずに済んだものを」
「……驚いた。珍しく馬鹿に甘い台詞を言ってくれたものだ」
「いや、お耳汚しを致しました。慣れぬことゆえ、なかなかうまくいかぬものです」
騎士は恐縮し、また下を向いた。
アウレリアはその時初めて、彼が手に何かを持っていることを知った。
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