報いとお礼

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 当たり前だ、ここまで踏み込んで、書き上げるって決めたのにあれこれと邪魔されてデータが真っ白になるなんて考えただけでも、別の意味で背中や腕がゾワっと粟立つ。怪談書きにとっては致命傷だ、立ち直るまで何日かかるかもわからない。  肝心の小説投稿サイトでは、ページビューは急には伸びないものの、何名かは繰り返し読みつもりになってくれているみたいで本棚やブックマーク登録しているという通知が来ていて、ありがたい。更新頻度が高ければ高いほど閲覧者数は増すのではと考慮したため、ワードファイルで何話かあらかじめ書いておいて、そこからコピペすることである意味このサイトでもバックアップ処置を行っていることになる。  藤吉さんのご家族は警察に捜索願いを出したけれども未だに「見つかった」とか「似たような人を見かけた」などの連絡はなく、困惑と悲しみにうちひしがれているそうだ。  でも、私は戻ってこないと思うんですとも藤吉さんは言っていた。  手紙を見るかぎり、すべてを覚悟していた上で消えたのではないかとも付け加えて。  藤吉さんの母親、佐世子さんには申し訳ないが同感だ。あの手紙を読んだあと、流産した子供の遺骨が入っていたはずの骨壷を開けたら中身は空っぽになっており、そのことでも佐世子さんは腰を抜かし、半狂乱になって泣き叫んでいた。  許さない。  あいつらはずっと、ずっと、私が生きている限り許さない。  私から娘と孫を奪っていって、ただで済むと思うな。子宮を失うだけで済むと思うな、何もかも奪い取って、後悔させてやる。  謝ることも知らないやつらに、嫌というほど思い知らせてやる。  言いながら、佐世子さんは壁にびっしりと貼られていた権藤と霧島の写真に、唾を吐きかけ、ガリガリと顔を引っ掻いていた。  様子が見ておられず、私と朝田さんは藤吉さんの部屋を出て行き、それぞれ帰路についた。LINEで帰宅の確認をしたあと、なかなか眠れずに朝を迎えて結局一日ゴロゴロとして、時間を無駄にしたなとあの日にしでかした、我が身のズボラさを嘆く。
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