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「あっ」
トンダ食堂のキッチンカーに並んでいると、後ろから女性の甲高い声がした。びっくりして振り返ると、同じ部署の加藤さん(トンダ食堂とイチオシしていた彼女だ)が青ざめた顔で水筒とお財布を脇に抱えていた。
「こんにちは……」
「いやいや、さっきまで一緒に働いてたよね」
じりじりと後ずさる部下。慌てて私は首を振る。
「えっ、別に、あの、あの件があったからトンダ食堂さんへ社員は出禁とかないから、大丈夫だよ」
「は、はあ……」
部下は不服といった態度で私の後ろに並び直した。
相変わらずこのキッチンカーは大繁盛のようで、自分の前に五人くらい。部下の後ろにもあっというまに人が並んだ。
「部門長もここのとんかつ弁当、召し上がられるんですね」
「ああ」
「なのに、手を引けっていったんですね」
「……すまない。色々あったんだ」
「いいんです、別に」
部下は頬を赤らめて見上げた。
「店長さんに申し訳なくって」
「どうした」
「いえっ、なんでも」
ぷいっと部下は横を向いた。そうしているうちに自分の番になり、比佐がにこっと私に笑いかけた。
「オリジナルカツ弁当ひとつ」
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