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第4話
離れなきゃいけないのに、今は思わず瞼を閉じてしまった。
樹のくちびるは、思っていた以上に柔らかい……。そのくちびるが何度も何度も重なる。まるでケーキの上のいちごを大切に食べられているような感覚や脳がしびれる感覚が襲ってくる。
やっと樹がくちびるをゆっくり離した。それなのにまだキスされているような熱っぽさが抜けてくれない。
ゆっくりとまぶたを開いた途端、私は力が抜けて何も言えなくなっていた。私はなぜ樹のくちびるを受け入れてしまったのだろう。その言葉だけが頭の中で何度もこだまする。
私のことを見つめている樹を突き放したいのに力が入らない。
私、なぜこんなことされて黙ってるの?そんな問いは次第に薄れていき、樹を受け入れてしまいそうな自分がいた。私はオーナーとしてしてはいけないことをしている。わかっているのに身も心も動けない、いや動かない。
「樹里さん?」
名前を呼ばれても返事すらできなかった。
優しく肩や頭を撫でられているのはわかる。でも、動くことも声を出すこともできずにいた。優しく語りかける樹からも、キスされた事実からもただ逃げたかった。
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