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巴水を見つめ少し熱い頬を撫でながら、昴は想いを巡らせていた。
(普段はちょっとした事で表情をコロコロと変え、見てて飽きない可愛い女だが、こうして見ると…)
「綺麗だな……ふふっ、環って、美人なんだな…」
微笑んで昴は頬を撫でていた指で、巴水の顎を少し持ち上げた。ゆっくりと体を倒し、巴水の唇に昴は唇を寄せる。
「環……起きないとこのままキスするぞ。いいのか?」
そう囁き唇を近づけていた時、そっと巴水の瞼が開いた。昴は体勢を元に戻し、巴水に話しかける。
「たま、起きたか? お前、飲み過ぎなんだよ! もうちょっと考えて」
昴がいつもの口調でそう言うと、巴水の顔がみるみる歪み、目を潤ませて涙を零した。
「もうちょっと優しくして欲しいぃ……っ……いつも、怒ってばっかりっ……私のことっ、きらい?」
巴水が泣きながらそう昴に尋ねる。昴は優しく微笑み巴水に手を伸ばして、涙を指で拭い目を見つめて言う。
「環、俺はお前が好きだ。優しくしてやるから、覚悟しろよ」
昴がもう一度ゆっくり巴水の唇に唇を寄せ、重なりかけた瞬間。
スゥ……スゥ……
昴の唇に巴水の寝息がかかり、昴は顔を上げ巴水の顔を見た。瞼を閉じ少し微笑んで眠っている。
「マジかよ! お前っ……ちっ!」
昴がたっぷりの愛情で告白し、今から優しく巴水を抱こうとした矢先、巴水はまた眠ってしまったのだ。
「おぃ! 環っ! 起きてるんだろ!」
巴水に呼びかけ体を揺さぶるが、瞼は開かない。体を揺さぶったせいで、巴水の首元についた櫻田のしるしが見えた。
「アイツにこんなもん、つけられやがって! 環、抱いていいか? キスしてもいいか? 俺の事……好きか…?」
巴水は眠ったまま答えない。
「俺の事、どう思ってんだよ……一輝が、好きか…?」
昴は巴水から離れ、横で肩を落としてうつむき静かに涙を零した。深く息を吐き指で涙を拭って、ヘッドボードの照明を消す。そっと巴水に掛布団をかけて、クローゼットから着替えを出し寝室を出た。
昴はソファーの横にズボンを脱いで置き、浴室に向かいシャワーを浴びる。部屋着に着替えて冷蔵庫のビール缶を1本開けた。ソファーに座り巴水の事を考える。
「いつも怒ってばっかり…か…。どうせ優しくしたらしたで、驚くんだろうが…」
昴は巴水に怒っている訳ではない。ただ正論を言っているだけなのだ。昴が巴水に悪戯をするのも、愛情の裏返し。ただ、巴水が好きなだけだ。
「告白…聞いてたかな? いや、環の事だ、きっと…」
昴はそのままソファーで眠った。
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