堕ちたドルイド と 堕ちた射手

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「その傷口からスライムが体内に侵入していたってことに気がついたのはずっと後からだった」 「! 寄生型のスライムが混じっていたのか? いや、少なくとも我の記憶ではそのタイプのスライムはいなかった。いたとすれば細心の注意を払ったはず…」 「うん。だからその時闘ったスライム達はみんな囮だったんだ」 「囮だと?」 「最初からパーティの誰かに寄生させるつもりで、あの戦いを仕向けたんだって。魔王様から後々聞かされた」 「…何ということだ。すでに魔王の術中に嵌まっていたというのか」  ぎりっと歯噛みする音が部屋の中に響いた。  反対にラーダからは乾いた笑い声が上がる。 「はは…そのハズレくじをアタイが引いたって訳だね。これでも最初の頃は抵抗したんだよ? でもダメだった。スライムはアタイの中でどんどんと大きくなって、次第にスライムの声に逆らえなくなっていった。後はアタイ達の動向を逐一魔王様に報告していた」 「なるほど…種が分かればあの時の完璧な奇襲も得心がいく」 「僕も納得しました…ところで、ラーダさんは何故そんなに怯えて身構えてるんです?」 「え?」  メロディアの指摘にラーダはピクリと反応した。そして恐る恐るという言葉がぴったりの態度で言う。 「だって勇者パーティを壊滅させた元凶はアタイですって白状するようなものだからさ…特にレイディアントなんてアタイを殺したいとか思ってるでしょ?」 「…」 「メロディア君にしたって旦那…スコアの敗北の原因を作ったアタイのことは快くは思わないだろうし」 「それは勝手な思い込みです」 「え?」 「確かに父を尊敬しています。ですが同時に母の魔王ソルディダも尊敬しています。両親の過去についても色々聞いていますけど、少なくとも今現在をもって勇者と魔王はいがみ合ってはいない。むしろ父からも母からもあなた方【八英女】の事を聞かされていなかったので、そっちの関心が強いだけです。どうしてパーティが瓦解したのか、それが知りたいと言う単なる知的好奇心ですよ」 「そうなの?」 「それに…何で【八英女】の事を伏せていたかは痛いほどよく分かりますし」 「ん? どうしてですか?」 「自分等の胸に手を当てて考えろ!」 「こうですか?」 「あんっ。ファリカ…もっと優しく…揉んで」 「そういうところだよ!」  メロディアが渇を飛ばすとその横をすり抜けてレイディアントが歩み出た。冷淡な視線を向けられたラーダは身を強張らせる。しかし、それに反するようにレイディアントは槍を納めたのだった。 「え?」 「今の話が仮に真実だとすれば、全ての非がお前に有るわけではない。スライムに寄生されたのがたまたま貴様だったと言うだけの話。退魔の力を持つスコア以外の誰がターゲットのされていたとしても同じ結果になっただろう。魔王の策略に乗せられた我ら全員に落ち度がある。貴様一人に怨嗟の念を向けたりはしないさ」 「うぅ…レイディ」  とうとう栓の効かなくなったラーダはレイディアントに飛び付き、ポロポロと涙をながし始めた。 「ごめん~。ずっと…ずっと会って謝りたかった。他のみんなは魔界で訳を話せたけど、レイディだけは見つからないんだもん~」 「我も我で色々とあってな」 「だと思う。見た目からして違うもん。けど堕天使? みたいでカッコいいし似合ってるよ」 「そ、そうか?」  包容が次第にじゃれ合いに変わる。その様子を一際微笑ましく見ていたのがドロマーだった。いい加減に鬱陶しくなってラーダを引き剥がそうとするレイディアントに向かって優しく声を掛ける。 「ありがとうございます。約束を守ってくださって」 「まあ、自分勝手な想像で敵を想像してはいけないと気がつかせてくれたことには感謝しよう。正義を行うためには事実確認は大事だからな」 「ふふふ」  ドロマーは笑う。  そしてそれ以上に優しく、それでいて満足そうな表情を見せていたのがメロディアだった。八英女の絆や信頼の一端を垣間見ることができた彼は、ここまで穏やか気持ちで六人を眺められることに驚いている。  とにもかくにも生きていると判明した八英女のうち、六人と接触することが叶った。残るはあと二人。  『双刃のシオーナ』と『神盾のドロモカ』。  一体どこにいるのか検討もつかないが、自分を狙ってきている事は確かだ。メロディアでゃ改めて二人の特徴や行き先の心当たりを尋ねて、次の襲来に備えることにした。
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