スーパー戦隊⚡︎カラフルレンジャー(オマケ付き)

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 さあいよいよ運命の日だ。  デビルズファイヤーのアジトに乗り込んだカラフルレンジャーたちはモブキャラの怪人や戦闘員たちを次々に倒し、ついにサディスティックウルフがいる部屋へとたどり着いた。  【社長室】と書かれたドアをノックすると、中から声が。 「入りたまえ」  ドアを開けると、ものものしい調度品の奥に重厚なデスクがあり、サディスティックウルフが座っていた。  首から下はスーツを纏った人間で、顔だけ灰色狼の怪人だ。右目は閉ざされており、瞼の上を縦に傷跡が走っていた。  さすがボスキャラだけあってかっこいい見た目だ。  スーパーヒーローひとすじの彼らは一般的なビジネスマナーを知らないので少々緊張していた。  カラフルレッドが恐る恐る話しかける。 「失礼いたします。あ、あの僕、私たちカラフルレンジャーと申すものでございまして、あ、あのその……本日はお日柄もよく……」 「まあ、かけたまえ」  サディスティックウルフはデスクの前にあるソファに彼らを座らせる。 「私を倒しに来たわけだね」 「そ、そうだ! この世の悪は俺たちがぶっ潰す! カラフルレッド!」 「ブルー!」 「グリーン!」 「イエローでごわす!」 「ピンクよ!」 「そして、僕が助っ人のワインレッドさ!」 全員がポーズを決める。 「五人合わせてカラフルレンジャー!」 「そしてヒャッカリョウランジャーからの助っ人!」  音声さんがシャキーンという効果音を絶妙なタイミングで鳴らすと同時に、テーマソングを勇壮にアレンジしたインストゥルメンタルが鳴り響く。最終回をかっこよく決めたら、シーズン2のオファーも有り得るのだ。スタッフもヒーローたちも気合いが入っていた。 「はっはっは、かっこいいね君たち」  サディスティックウルフは豪快に笑うが、その目はギラつき六人をめねまわす。 「ところでレッド君、君は学生の頃、ネット論客だったようだね」 「うっ、なぜそれを!」  恥ずかしい過去を暴かれたカラフルレッドはたじろぐ。 「舌鋒鋭く論破の山を築いていたねー。あの頃から正義感が強かったんだね。めんどくさくなった相手が君をブロックするとスクショとともに〝 はい、逃げた。論破〟と勝ち誇っていたね」 「やめろー!」  レッドが頭を抱えうずくまる。 「ブルー君、君はオカルト雑誌の〝 月刊マー〟に真実に目覚めた光の戦士がどうのこうのという投稿をしていたね。光の戦士としての活動は順調かね?」 「な、何故それを知ってる!」  ブルーが顔だけレッドに変色し叫んだ。 「やめてくれー!」 「ピンク君、君が高校生の頃書いたポエムを朗読するよ」 「いやぁ〜!」 「あたしの心はガラス細工。あなたを思うと黄昏色に染まるの……。ピンク君、素晴らしい言語センスだね」 「やめて〜!」 「イエロー君、君は高校生の頃は今みたいに太っていなくて、この写真から察するに自分では美少年だと思っていたんだね」  イエローの若い頃の写真がスクリーンに大写しになる。今とは全然違うスリム体型で銀に染めた前髪を遊ばせて、憂いを帯びた眼差しで斜めに立ちポーズを決めている。 「やめるでごわす!」 「当時はそんな喋り方じゃなかったようだが……。そう、今のワインレッド君のような喋り方だったようだね。キャラ作りも大変だね」 「やめてくれー!」 「最後にヒャッカリョウランジャーからの助っ人のワインレッド君」 「お、俺は!?」  グリーンが叫ぶ。 「あ、影が薄いから忘れていたよ。次はグリーン君、君はね、我々の諜報員たちが君の少年期の情報を調べたんだが、当時も影が薄くてたいした情報を得られなかったようだ。グリーン君、これでいいかね?」 「やめろー!核心をつくなー! どうせ俺はモブヒーローだよ!」  グリーンが頭を抱える。 「最後にワインレッド君、君は、学生の頃軽音部でビジュアル系バンドを組んでボーカルをやっていたね」  スクリーンに映された当時の写真は、いかにも若気の至りという感じの美少年気取りの表情でポーズを決めているワインレッドだった。イエローの黒歴史と同じようにかなり恥ずかしい過去だ。  しかし、イエローとは違いワインレッドは何のダメージもないようだ。それどころか誇らしそうでさえある。 「僕の昔の写真を見つけてくれたんだ。熱心なファンなんだね。ウルフ君、僕も君が大好きだよ!」 「うっ、どうしてだ。黒歴史を晒されて恥ずかしくないのか?」  サディスティックウルフが初めて動揺の色を見せた。 「そうか!」  カラフルレッドが叫ぶ。 「ワインレッドは現在進行形で黒歴史真っ只中だから、黒歴史を晒されても痛くも痒くもないんだ! 」 「なぜワインレッドが助っ人に選ばれたのか、やっと分かったよ」 「たしかにこいつにしか務まらないよな」 「おやっさん凄い!」 一同がどよめいた。  ワインレッドは微笑んだ。いつの間にかワイングラスを片手に持っている。 「ねえウルフ君。片目の狼のデザインかっこいいよね。君が考えたデザインなの?」  なんということもない質問のようだったが、それがサディスティックウルフには傷口をえぐられたように感じたらしい。 「くっ、それを言うな。たしかにこういう風に改造してくれと依頼したのは私だ。当時は私も若かった」  うつむき加減になる。 「今ならもっと大人に相応しいデザインにするのだが。いい歳して何をやってるんだ私は!」  頭を抱えこんでしまった。 「ウルフ君、元気出して! その閉じた瞼の上を縦に走る傷跡がめっちゃかっこいいよ!」  ワインレッドは本気で褒めているらしい。サディスティックウルフが得意な皮肉を込めた賛辞ではなく。それが余計にサディスティックウルフを苦しめた。 「こやつに本気でかっこいいと思われてるとは。あの当時の私のセンスはこやつと変わらないというのか!」  サディスティックウルフはデスクの上のボタンを押した。  警報が鳴り響く。 「なにをする! なんだそれは」  レッドが叫んだ。室内に緊迫感が走る。  手下を呼び出す気なのだろうか。 「今から十分後にこのアジトは爆発する。諸君は逃げたまえ。さらばだ。私はここで生涯を閉じることにしよう」 「待てよ!」 「ウルフ君も逃げようよ!」  世界征服を企む悪の組織のボスとはいえ、よく考えるとこの男もそこまでの悪人じゃない。  国会議事堂や幼稚園などを襲撃することもたびたびあったが死者や重傷者は一人も出していないのだ。軽傷者を出したときは、丁寧に手当をしている。そのために怪人には医師免許を持たせているらしい。  この作品の世界観から逸脱しないだけの良識はあり、空気を読める男なのだ。 「早く逃げないと諸君も巻き添えを食うぞ。これはヒーローや怪人にもダメージを与える特殊爆弾だからな」 「力ずくでも連れていくでごわす!」  とびかかるイエローの巨体があっけなく吹き飛ばされる。さすがボスだけあって、精神攻撃だけじゃなく肉体的にも強いようだ。 「五人とおまけのワインレッド全員でこいつを連れ出そう!」  レッドの決死の表情を見たサディスティックウルフはため息をついた。 「君たちを巻き添えにするのは私の本意ではない。仕方あるまい。ついていこう」 「よし、みんな急げ!」  怪人たちはすでに避難ずみのようで閑散とした廊下をヒーローたちと、スタッフ、そしてサディスティックウルフが走り抜ける。  扉を開け、さらに走る。そろそろ時間だ。 「伏せろ!」  レッドの声とともに全員が伏せる。――いや、一人を除いて。  サディスティックウルフが基地へと歩き出していたのだ。 「ウルフ!」 「戻ってこい!」  振りむくこともなく歩き続ける。口々に叫ぶ彼らの声にこたえるように片手を上げた。そして……。  アジトが爆発音とともに吹き飛ばされる。  地面に伏せ、爆風と飛来物をやり過ごしたあと、彼らは立ち上がった。  サディスティックウルフの姿は見当たらない。 「ウルフ……」 「カッコつけやがって」  誰からともなく胸に手を当て廃墟に向かい黙祷を捧げた彼らを夕陽が照らす。  スタッフがテーマソングを哀愁に満ちたアレンジにしたインストゥルメンタルを流す。ナレーターが語り始めた。 「こうして悪の組織デビルズファイヤーは壊滅し、カラフルレンジャーは世界に平和を取り戻したのだ。しかし、人間の心に闇がある限り第二、第三のデビルズファイヤーが現れることだろう。闘えカラフルレンジャー!」  こんな間抜けな作品にしてはシリアスなエンディングを迎えようとしているが、はたしてサディスティックウルフは死んでしまったのだろうか。読者諸君、安心したまえ。前述の通りサディスティックウルフは空気を読める男だ。「死」はこの作品の世界観を逸脱する行為だ。そんなことをする男ではない。きっとどこかで生きていることだろう。  と、セカンドシーズンを書けたらいいなー、どうですか読者さん。などとお伺いをたてつつこの物語は完結するのだった。
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