3-1 青年、怖い話を耳にする

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 自分ではそう思っていないらしいが、硫黄さんは感情が顔に出やすい。  あの一二三さんという方は、硫黄さんにとって思わしくない相手なのだろう。割と簡単に予測できた。 「そうそう、それそれ、一二三さんね。まあ一二三さんはともかく、あの蛙がちょっと危ない、って話を聞いたことがあるもんだから」 「危ないんですか」 「危ないよ。だから警護隊が目をつけちゃうんだ」  硫黄さんはつぶらな目を私に向ける。こすっているあごから、いまもぞりぞりと鉄砂が落ちていく。 「なにか思い当たったりしない?」 「はい、化けもの好きということくらいしか」  目を見開き、硫黄さんは手を止める。 「皮剥くん、怖くないの?」  怖いものなのだろうか。  げこり、と穏やかに笑う一途くんの顔を思い起こした。  まったく恐くない。  次いで家にいる化けものの様子が思い起こされた。  そちらもまったく恐くない。 「まあ……好きなものはしかたないでしょうし……怖いことにあいつが巻きこまれなければ、それでいいんですが」  机に散らばった鉄砂を手で集め、硫黄さんは小山をつくる。 「友達かぁ」 「腐れ縁だと思います」  大学を辞めた後もつき合いのある学友たちは、みないい腐れ縁だ。 「しつこいけど、彼のことは怖くないんだね」
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