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自分ではそう思っていないらしいが、硫黄さんは感情が顔に出やすい。
あの一二三さんという方は、硫黄さんにとって思わしくない相手なのだろう。割と簡単に予測できた。
「そうそう、それそれ、一二三さんね。まあ一二三さんはともかく、あの蛙がちょっと危ない、って話を聞いたことがあるもんだから」
「危ないんですか」
「危ないよ。だから警護隊が目をつけちゃうんだ」
硫黄さんはつぶらな目を私に向ける。こすっているあごから、いまもぞりぞりと鉄砂が落ちていく。
「なにか思い当たったりしない?」
「はい、化けもの好きということくらいしか」
目を見開き、硫黄さんは手を止める。
「皮剥くん、怖くないの?」
怖いものなのだろうか。
げこり、と穏やかに笑う一途くんの顔を思い起こした。
まったく恐くない。
次いで家にいる化けものの様子が思い起こされた。
そちらもまったく恐くない。
「まあ……好きなものはしかたないでしょうし……怖いことにあいつが巻きこまれなければ、それでいいんですが」
机に散らばった鉄砂を手で集め、硫黄さんは小山をつくる。
「友達かぁ」
「腐れ縁だと思います」
大学を辞めた後もつき合いのある学友たちは、みないい腐れ縁だ。
「しつこいけど、彼のことは怖くないんだね」
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