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しばらく、誰も口を開かなかった。おそらく海老沢さんは、ゲンさんの出方を待っていたのだろう。一方で、ゲンさんは黙って、じっと籐子さんの様子を見ていた。その沈黙に俺が耐えかね、でも、何を話していいのか分からず、戸惑い始めたその時、
ピキッ!
テーブルの上で音がした。それは、普段なら気に留めない程度の音だった。しかし、この静けさの中では、異常に大きく響いた。
みんなの視線がそこへ集まる。ただし、ゲンさんだけは視線を動かさないでいた。
「……氷、中花?」
俺は、テーブルの上を見て、ポツリと呟いた。すると、籐子さんが無表情のまま言った。
「そうよ。綺麗でしょ」
テーブルの上には、ガラスの器の中に入った氷中花が飾られていた。
ああ、なら、さっきの音は氷中花の氷が溶けて、ひびが入った音だったのか。
氷の中に閉じ込められた白い花。ひびのせいか、それは歪んで見える。
「白い花はね、すぐに傷んで茶色くなってしまうの。でも、こうやって氷の中へ入れたら、ずっと綺麗なままなのよ」
「なるほど。だから、冷凍庫へ入れたんですか?」
穏やかに世間話でもするかのようにゲンさんが言った。
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