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梓はなにも言えず、羽鳥の言葉を聞いていた。一気に押し寄せた情報の量に、頭が追いついていかない。
一方でどこか納得していた。羽鳥の告白を真正面から受け止め、点と点がつながった。
『それでも、力があるなら知るべきだ。知らないまま、なにもしないのは傲慢だ』
前に告げられた言葉も今なら分かる。
彼がやっと手に入れた力を、梓は持っていた。
持っているだけだった。あるのが当たり前だと思っていて、逃げ続けていた。知ることからも、それを使うことからも。
羽鳥はなんて思っただろうか。自分の欲しいものを持った人間が目の前にいて、大した努力もせず、力を持て余していたら――。
「ごめん」
口をついて出た言葉は自分でも薄っぺらいと思った。それでも、それしか言えない。いくら言葉を重ねたって、取った行動は消せないのだから。
「……俺はうらやましかっただけだ」
羽鳥が静かに口を開いた。
「お前の力は、おばあちゃんのものと一緒だから。俺のなりたいと願った憧れの姿だったから。初めて見たとき、正直悔しかったし、うらやましくて、妬ましくて……自分の考えをお前に押し付けた。だから、謝られる筋合いはない。まあ、気に入らないのは確かだけど」
「一言余計なんですけど」
最後にぼそりと付け加えられた言葉に思わず声をあげる。でも不思議といつものようなムッとした気分はなかった。
隠すように顔をそむけた羽鳥の耳が、赤く染まっていたのが見えたから。きっとこれは熱のせいじゃない。
「お互い様でしょ。私だってあんたのことは気に入らないから」
気に入らないけど、歩み寄ることはできる。ためらうことなく、梓は口を開いた。
「一つ、聞いていい?」
「……なに?」
「なんで守護者になりたかったの?」
「好きだから。この場所とそこに住む人たちが。それを守る、おばあちゃんや父さん、母さんの姿も」
間髪入れずに羽鳥は答えた。
「町に比べればなにもない田舎だと思うけど、空も緑も綺麗に見える。静かだけど、人の生活があって、暖かい力に満ちている。俺にはそれが心地良い」
「え? それだけ」
「……そうだけど」
なにか悪いか。
そういわんばかりのジトっとした目を向けられ、梓は慌てて首を横に振った。いえいえ、悪いことなんてなにも。
返ってきたのはひどく単純な答え。普段は難しい顔をしてるのに、ふたを開けてみたら、こんなに分かりやすいだなんて。
「……あんたって、意味わかんない」
「はぁ?」
「でも、すごい奴だわ」
好きだから。その一つだけで、彼は力を手に入れ、強くなった。それは梓にはきっと真似できない。
「悪いものでも食べたのか?」
「あんたね……だから一言多いんですけど」
梓は言い返すと踵を返した。襖を開ける。
「とりあえずご飯持ってくるから、薬飲んで寝て。……儀式の片付けは私が行くから」
今度は自分に歩み寄る番だ。
私はこの力で、なにをしたいんだろう。自分の声に耳を傾けなきゃいけない。
そのための一歩を踏み出した。
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