悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 都心へと向かう車窓から目にした美容クリニックの看板。最寄り駅を降り携帯MAPを頼りに目的地のビルへと辿り着いた時刻は午前十時、どこからか漂うバターの香りに視線を向けると焼き立てパン屋の扉が開閉を繰返していた。 誘惑に負け思わず店内を覗き見るが、今日の目的地ではない現実を思い出し(きびす)を返す。  更に五分程歩き路地を抜けた裏通りとなるこの一角には、店舗はおろか人影すら殆ど目につかない。利用者の人目を気にしての配慮だろうか? それとも、メイン通りを離れたテナントリース料を考えれば業種的に十分な立地なのだろう。見上げた真っ白い清潔なイメージのコンクリート外壁、最上階となる八階ワンフロアには屋上に建てられた車窓から目にした看板と同じ文字が綴られる。 「西城美容クリニック――」  武田優斗(ゆうと)は目的地へと辿り着いた。
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