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「ふぅー。今日は客が少ないな」  カウンターにもたれながら疲れと一緒に溜息を吐き出すクウェルム。そこら辺の子どもが描いたような棒人間という見た目に反して人間の成人男性と変わらぬ体重がある彼はその大半をカウンターに支えてもらっていた。  すると店のベルがお客の来店を知らせる。それは口の周りに立派な髭を生やした男。男は店内の商品を見ながら真っすぐカウンターに歩いてきた。 「ガロン一つ、頼……」  注文をしながら視線をクウェルムへ向けた男はを思わず唖然とした。 「ガロンですね。かしこまりました」  だが彼にとってそれはもうとっくに慣れた反応で、特に気に留めることはなく言われた商品を後ろの棚から取り出す。 【ガロン:二輪もしくは四輪走行のモバックを動かす燃料。モバックは便利だがガロンがあまり安くはない為、ホーカスという動物に荷台を引かせるのが主流。1L=176ts】  クウェルムは30L容器のタンクを取るとカウンターに置いた。 「30Lでよろしいですか?」  だがまだ唖然とした表情を浮かべクゥェムの言葉に男は全く反応を示さない。 「お客さん?」  この呼びかけでハッと我に返った様子だった。 「悪い。何だって?」 「30Lでよろしかったですか?」 「あぁ。いくらだ?」  男は財布を取り出しながら訊いた。 「5,280ts《テス》になります」 【ts《テス》:通貨の単位。三大大国により全ての通貨は統一された。1ts,10ts,50ts,100ts,500tsの硬貨と1000ts,5000ts,1万ts,5万ts,10万tsの紙幣で構成されている】  男は財布から五枚の紙幣と六つの硬貨を取り出しクゥェムに差し出す。代金を受け取り金額を確認するとキャッシュドロアの上部に開いた穴へお金を放り込んだ。  すると一瞬青く光りピンポーンという音がなる。 「丁度になりますね。ありがとうございました」  言葉と共に頭を下げるが男は財布をしまってもクウェルムが顔を上げてもすぐに立ち去ろうとはせず彼の顔を凝視していた。 「お前さん。何ていう種族だ?俺も色んなとこ旅して色んな種族に会ってきたがお前さんみたいなのは初めてだ」 「申し訳ありませんが、僕にも分からないんです」  返って来ると思っていた返事ではなかったのか男は分かり易く頭上に疑問符を浮かべた。 「分からないってお前さん以外にもいるんだろ?」  だがこれはクウェルムにとってはもはやパターンと化した流れで事務的に答える。 「会ったことはありません」  言葉と共にクゥェムはゆっくりと首を横に振る。 「親御さんは?」 「会ったことありません。いるのかどうかも分かりません」 「――そうか。奇妙なやつだ。それじゃ、今度ここに寄ることがあってそれまでにお前さんと同じ種族に出会ってたら教えてやるよ」 「ありがとうございます」  だがあまりスッキリしないと言った様子のまま男は商品を手に取ると店をあとにした。そんな男と入れ違い店内には女性が一人入ってきた。編み込み混じりのロングヘアにロングカート基軸としたコーディネートをしたおしとやかな女性。女性はブーツの足音を立てながらカウンターまで近づいてきた。 「こんにちわ」  それは容姿同様に落ち着き小鳥のさえずりのように綺麗な声だった。 「いらっしゃい。エマ。おつかい? それともサボり?」 「おつかいよ。私がサボってるところ見たことある?」  少し怒っているような演技をしたエマだったがすぐに「ふふっ」と堪えきれなくなったのか笑い声を漏らした。 「それもそうだね。それで? 何が必要なの?」 「えーっと。……。何だっけ?」 「いや、僕に聞かれても……」 「そうだよね。ちょっと待っててすぐ思い出すから」
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