最終話 未来の始まり

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「……腸詰は?」 「夜いっぱい食べような。それより相談したいことがあるんだ」 「なあに?」 「あのな、慶都はおじさんとおばさんと一緒に宮廷へ引っ越すんだって」 「う!?」 「天藍が俺達も宮廷に置いてくれるってさ。俺は凄く良いと思う。腸詰も買えるしお洒落もできる。ただ立珂の抜けた羽根をあげなきゃいけないんだ」 「う? それでいいの? そしたら慶都とずっといっしょ?」 「ああ。立珂が嫌じゃなければだけど」 「いいよ! あげる! 慶都といっしょがいい!」 「……そっか」  立珂はまだ眠っている慶都を揺すり、いっしょ、いっしょ、と繰り返している。大好物の腸詰よりも夢中になれるお洒落よりも慶都と過ごすことが何よりも嬉しいようだった。そして薄珂にとっても嬉しいことがもう一つある。 (宮廷には天藍がいる。宮廷にいればこれからも会える……)  皇太子というのがどんな立場でどれほど偉いのか、薄珂にはまだよく分からない。軽率に傍にいることを願って良いのかは分からない。そう思えば慶都のように傍にいたいと叫ぶ勇気は持てなかった。くっと拳を強く握ったが、その手を天藍が握りしめた。 「薄珂。俺が里に行ったのは皇太子としてやることがあったからだ。だがお前にしたこと、告げたことに偽りはない」  薄珂の世界が変わったのは天藍が来てからだ。天藍が来なければ金剛を信じ続け、いずれ売り飛ばされ立珂と離れ離れになっていただろう。全てを繋いでくれたのは天藍だ。 「一緒に暮らそう。今度こそ俺に守らせてくれ」 「……うん」  薄珂はじわっと涙を浮かべ、立珂を慶都の傍に置いて差し伸べられた手を取った。 ・ ・ ・ 「そういや『天藍』って偽名? 晧月って呼んだ方がいい?」 「……お前本当にどうでもよかったんだな」 「え? 何が?」 「ったく。晧月は皇太子が対外的に使う別名のようなもので呼び名じゃない。天藍が俺本来の名だ。ここらじゃ『てぃえんらん』って読みだったか」 「ふうん。じゃあ天藍(てんらん)で」
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